戦国BASARA・腐向け・サスダテ中心・本館(サササケ)を見ている方向け。
女体化とか幼児化とか遠慮なく出てきますのでご注意ください。
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独眼竜殿にこの文を届けてくれ。
といつものごとく――否。何やら久しぶりに真田幸村に命じられて、佐助は木の枝に腰掛けたまま「はいはい了解」と軽く答えた。
幸村は赤鉢巻の下わずかに眉をよせ、怪訝そうな視線を佐助にむけた。
日の光がまっすぐにさしこむ黒い眼。
「いやに素直だな」
「なに。俺様断る権利あるの?」
「ない。だがまた渋い顔のひとつやふたつはするだろうと思って、お前の口に合いそうなものも用意したのだが」
封をした酒瓶をかかげる幸村に、佐助はへらりと笑ってみせる。
「今日は気分がいいもんで」
皐月のすがしい空の下、空気はのどを潤す湧き水に似て甘い。佐助が隠れる椎の木のその葉は、古い葉を押しのけ芽吹いたばかりの明るい緑だ。
――だがそんな諸々はいっそ関係ないのかもしれない。
佐助はただ、晴れやかな気持ちだった。
何より『独眼竜』というその名を百日ぶりに受け止めて、脈のひとつも乱れないことに、安堵していた。
「では頼んだぞ」
と幸村に酒瓶を渡されて、佐助は「へ?」と間抜けな声をもらした。
お前が好きそうな――と用意してくれたのはありがたいが、今この場で賜るとは思ってもみない。てっきり後で、幸村が封を切ったら御相伴にあずかるもの、と忍びの佐助は心得ているつもりだったのだが。
「政宗殿にお渡しすれば、お前も呑めるだろう?」
「うわあ、旦那それいらない気遣い」
「いずれお前のものだ。文には書いておらぬゆえ、好きにしろ」
「へーへー、心得ましたっと」
佐助のしまりのない返事に、幸村は「うむ」とまっすぐな目でうなずいた。
――我らが大将武田信玄公に賜ったものならば、この酒瓶には盛大な揶揄を感じるところである。
だがその腹心の将真田幸村には、何につけても他意が見えない。言葉のままだ。
だからと言って佐助が独眼竜の名にたびたび渋い顔をしていた理由を――知らないわけでは、たぶん、ないのだろう。
(ただ根本的に、分かってなさそうなんだけど)
猿飛佐助を奥州に使いにやる。と、帰りがいささか遅くなる。それというのも奥州筆頭、独眼竜の二つ名を持つ伊達政宗が、この武田の忍びを捕まえては引き留めるからだ。
真田幸村とは好敵手の間柄、歳はあちらがふたつ上である。歳だけのことではないのだろう、奥州を束ねて背負い立つ独眼竜のその立場のためか、幸村は己を政宗より未熟と考えているふしがある。
佐助の目にはどっちもどっちだ。
ただ、日の光のようにまっすぐな気性の幸村に対して、独眼竜はなんとも――たわんでいる。その兜にいただく三日月のように。
『Hey,武田の。Good evening』
独眼竜の名の通り、左だけの目。
鋭いその目と、竜の牙がのぞく唇を、たわませてニイと笑う。
(あの顔を見ると…)
夜闇に忍んでいくのは忍びの性だからだと言うのに、夜だからと引き留められて、酒につきあわされて、それから――まあ色々と。
佐助にしてみれば、やましいところがあって『色々』を濁すわけではない。
――ただ、自身にさえ説明できないから、濁していたのだと思う。
好きだとか慕っているのだとか、そういう気持ちはいっさい持った覚えはなくて、強いて言えば。
――腹からせり上がるような強すぎる衝動。
あの竜に対して佐助が感じていたのは、苛立ちに近い。
いつからかは忘れた。
戦場で真田幸村と対峙したその日か。
諜報で忍ぶ身を見破られた時からか。
無理矢理となりに引き寄せられた夜にか。
――少なくとも、その肌に触れた瞬間には、すでに。
会うたびに酷く思考を乱されるのが、終いには月見るだけでぐしゃぐしゃと、その橙赤毛をかきまわす羽目になって、佐助は前より竜を嫌いになった。
いっそ暗殺の命でも下れば、嬉々としてしたがっていたに違いない。
――否。それでは駄目だ。
何の感情も抱かず確実に仕事を遂行するのが忍びの本分。それなのに。
(もしも)
幸村との勝負の果てでなく、竜が天下に駆け上る夢のためでもなく、あの男を自分が闇に引きずり込んで、この手で、この爪で。
(…とか思っちゃった時点で、激しく負けな気がするんだけど)
呼吸の仕方を思い出せなくて、佐助はいっそ息を止めた。考えるのを止めた。月を見ないようにした。
幸村が独眼竜殿政宗殿、と語る上田城を離れて偵察に飛び回り、奥州の分は部下に押しつけ、そうするうちに、満ちて欠けて、三ヶ月だ。
竜の名を聞いても動じないほど――その毒が抜けるまでにかかった時間。
竜が佐助を「真田んとこの忍び」と認識するほどになって一年経つか経たないか、これだけ間を空けたことはない。
(つっても、あっちは気にもしてないだろ)
日の光から隠れ、太い枝の葉の陰に佐助はいた。
一晩かけて今度は、青葉城の樫の木だ。
――夜は避けた。
闇夜ならば忍びの領分。だが月夜は竜に味方する。
満月など以ての外だろう。月明かりを浴びて白い顔、金色のひとつ眼。
あの視線は、毒だ。
――いやいや、弱気は禁物。
今なら、会ってもどうということはない、と。そう思えたから佐助は来たのだ。
気の迷いだったことを証明するために来たのだ。
皐月の風を浅く吸い、深く吐く。
日の光を浴びる城に目をやるが、いつもの部屋に竜はいない。
さきほどは参謀の片倉小十郎が回廊を足早に巡回していた。ピリピリと雷の気を放っていたのは気のせいか。
(仕事ほっぽりだして馬でどっか行っちまったとか?)
そいつはこっちも困るな、と佐助は泥化粧をかいた。
――それともいっそ、片倉の旦那に書状を渡して使いを終わらせてしまうか。
竜の右目に託したなら、上田城主真田幸村の文、竜に直接手渡すことと大差ない。問題ない。
ならば。
「……、」
陰から動きかけた佐助を、忍びの感が押しとどめた。
――背後から。
近づく気配。
音を立てぬよう土を踏む足。
枝の上にいる佐助に気づいてか気づかずか、樫の木にするりと近づいて――。
(ああ、しくじった)
心に声が浮かぶ。
――いやしかし、何をしくじったことになる?
元より顔を合わせるはずだったのだから、と眉間のしわに指をあてながら反論し、佐助はさらに(あれ?)忙しなくと瞬いた。
降りてこい、という不遜な声が、煙管に掠れたあの声が、今にも届くと思いきや。
気配は、ざわざわと葉を揺らしながら登ってくる。
登ってくる。
――登って。
ザザッ。
「…え?」
ドサ、と佐助の膝に落ちてきた、その重み。きしむ枝。ハラハラと落ちる葉。
木洩れ日を緑葉を髪に肩にまとわりつかせ、子どものように。
「Good morning,猿。かくまえ」
――ふてぶてしい子どものように、無駄に偉そうに、憮然と言い放ったのは、もちろん。
跳ね上がった心臓を落ち着かせるように、佐助は息を深く吐いた。浅く吸った。
日の匂いに、伽羅の香りがはらりと混ざる。
「かくまえって竜の旦那、あんたいきなり何を、っ!」
最後まで言葉は許されず、忍びの口はガッと手でふさがれた。後頭部が幹に衝突して、またハラハラと葉が落ちる。
「Be quiet!見つかるだろ…?」
唇に指を立て、囁く声で叱咤する独眼竜の金のひとつ眼は、佐助の鳶色のすぐ前だ。
忍び装束に身を寄せる鮮やかな青。戦場で目にする陣羽織。それを少しでも隠したいのか、忍びの葉陰斑のすそを引っ張っては肩の辺りを覆う努力をしている。無駄な努力をしている。
――なにがしたいわけ、この人!
佐助は心の中で叫んだ。
樫の枝の上、独眼竜は佐助の膝にまたがり、佐助の口を押さえ込んだまま、佐助の装束をつかんで、その肩に顔をうずめるようにして。ぴたりと体を合わせた。
息をつめ、何かが過ぎるのを待つように。
――落ちつけ、猿飛佐助。
すぐそばの黒髪の、木洩れ日に金茶の艶がのる間にからまる葉と小枝を見つめて、佐助も息をとめた。
遠く、厩の方で片倉小十郎の声が響いている。馬はつながれたまま、城は出ておられない、くまなく探せ――。
忍びの耳にもかすかなその声を聞き取ったものか、辺りの静けさに気を緩めたか。
佐助の耳朶の下で、ホウと息を吐く気配があった。
――嗚呼、もう。
サワサワと涼やかに風が吹く。わずかな汗を冷やしていく。
押さえ込まれた口を開いて指の腹に軽く歯を立てれば、ぴくりと青い肩が跳ねた。手が退いた。
「…片倉の旦那は、厩の方みたいだけど?」
どいてくんないかな、そろそろ。
出来うる限りの平静な声で言えば、竜は体を起こし、わずかばかり後ろにずれた。うしろとは言え、膝の上は膝の上。
「あのさ、独眼竜の」
「逃げるな」
舌からすべりかけた言葉が、竜の一言にとどまった。
――それが、この数ヶ月の自分のすべてを責めるように響いたから。
「逃げんじゃねえぞ…?」
「――逃げるって、べつに」
俺は。
つづく言葉が見いだせないまま、じっと見つめる――こんな時だけまっすぐな、月明かりに似た金のひとつ眼を、見つめ返す。よく見ればそのするどい目の下に、うっすらと隈が浮かび上がっていた。
「…眠れないんだ」
密やかに囁かれた言葉に、佐助は呑まれたように、沈黙する。
「さいきん妙に寝付きが悪くて――」
「……」
「仕方ないから小十郎より若いやつら叩き起こしてこっそり派手に腕相撲Party開いたりしてたんだが、まあバレてな。夜遊び厳禁とかお小言くらっても眠れねえもんは眠れねえんだよ。昼に散々刀振っても夜は目が冴える一方で家康のやつは自家製だとかいう煎じ薬奨めてきやがるし、気分転換に上田まで馬出すつったら小十郎が寝不足で遠出は危ないとか言いだしやがって、……で」
「で、逃げ回ってるわけ」
「Ha!突破口を探してただけだ」
「言っとくけど俺様は突破口にはならないからね?」
「Wait,逃げるな!」
「見逃してくれって!」
装束にしがみつかれて佐助は悲鳴をあげた。
――本当になんなんだこの状況!
せっかく忘れられたと思っていたのに、この不用意な近さは――。
「猿飛」
「……、」
「上田まで連れてけってんじゃねえ、ただ」
もう少し、ここにいてくれ。
「今なら、眠れそうな気が、する」
すでにどこか舌足らずな響きで、竜は眉間にしわを寄せ、その睡魔をこらえるように首をふる。
ぱさぱさと揺れる黒髪からこぼれる香りは忍びの骨を侵すかに甘かった。伽羅だけではない、つまりは竜の身の。
(毒だ)
(…あー、ちくしょ…)
佐助は深くその香りを吸って、重くため息をついた。
子どもにするように、背中の鎌風渦巻く文様に腕を回し、青い陣羽織の殿様を抱き上げる。
――刀と兜がなくてよかった。
「…全然寝てないわけ?」
「少しは――明け方、寝ると、Ah,すぐ、目が覚める」
あんたが帰る気配がして。
(………本当に、もう)
「Shit,寝ぼけてんな」
忘れろ、と稚く命じて、竜は柔らかく笑んだ。
――今日はじめて、笑う竜を見た。
「忘れられるもんなら忘れたい…」
黒雲を吐き出すような佐助のため息とは裏腹に、竜の寝息は透明にすこやかに、つかえるものなどないように、腕の中響きはじめた。
(…文も酒も、夜でいいか)
ゆっくりしてこい、と鷹揚に見送ってくれた幸村の言葉には、決して甘えないはずだったのだが。
――嗚呼、俺様の三ヶ月。
無駄な悪足掻きでしたよ、チクショウ。
木の葉を透かした皐月の空に、佐助はもうひとつ。
忍びらしからぬため息を、散らした。
了
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