戦国BASARA・腐向け・サスダテ中心・本館(サササケ)を見ている方向け。
女体化とか幼児化とか遠慮なく出てきますのでご注意ください。
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ちま佐助+パパ位置な真田+少年政宗さま
※毎度の事ながらモブ忍がしゃべります。
佐助の両親は共働きで、確かにあまり暇ではない。
幸村が直属の上司なのだから、その事情はよく心得ていた。――そのつもりだ。
だが、事あるごとに佐助を幸村に預け、色んな方に会わせてやってください、と送り出していた部下たちの真意はどこにあるのか。
――前世の縁を、大切に。
色んな方に、というのはもちろん、その前世に出会った人々のことだ。佐助の両親がそもそも、佐助と前の世で縁がある。だがもっと他に、当時の幸村が知るだけでも、四国の長曾我部や――奥州の独眼竜、伊達政宗が、今生に姿を現していた。
ただし独眼竜は、佐助と七つしか離れていない、小学生だったのだが。
「ワーオ、またずいぶんcuteなかっこうだな。たけだの忍び」
公園のベンチで待っていた伊達政宗少年は、ぴゅーうと器用に口笛を吹く。
その日の佐助は、たっぷりとしたパーカーを着せられていた。
色は蜜柑めいた明るい橙色で、フードをかぶれば綿の入った大きな三角の耳がたつ。背中のすそから垂れたしっぽは、筆の穂のように柔らかくふくらんで、すぼまる辺りは白くなっていた。
――つまり、狐の耳としっぽがついた上着なのだった。
キュート、の意味を何と思ったか、佐助はきゅっと唇を尖らせる。
「まさむね、きつね、きらい?」
というのも、佐助にこの服を用意した佐助の両親が、絶対にウケますよー間違いなし間違いなし!幸村様デジカメ持って行ってくださいね?と満を持して送り出したのだ。
あれだけ大騒ぎされれば気にもなるだろう。――単に、相手が政宗殿だからやもしれぬが。
「Han?きらいじゃねえよ」
そう言いながら、幸村に抱えられた佐助の頭を耳つきのフードごと、もふもふと撫でる。ニイと笑う。さわり心地もよかったのだろう――間違いなく、気に入った、という顔だ。
幸村にはそれがよく分かったから、まだ何か言いたげに唇をムニムニさせている佐助より、政宗の方に目を向けた。
「して、政宗殿」
「ん?」
「政宗殿の方の、それは――」
それは、黒いパーカーだ。パーカーと呼んでいいのか迷うところだが、フードがついてジッパーで前を閉じている。
耳がついている。
角もついている。
しっぽらしきものがついている。
羽も、ついている。強いて言えばコウモリめいた羽だ。
背中から尾にかけて、鰭のようなものがついている。
袖は手首に向かうにつれて太く広がり、手の甲の辺りには爪が、そして、この袖にも、鰭が。
さらに、所々に、鱗の飾りがついている。
――佐助のキツネさんパーカーより凝りに凝ったこれは、おそらく、間違いなく。
「竜にござるな」
言い当てられて、前世で竜と呼ばれた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「It's one eyed dragon!」
天然の牙とつり目に、金の眼。
右目は今世では無いまま生まれたらしいと、先に見つけた長曾我部元親に聞いていた。
――年の頃以外は、何も変わることなく。そう思っていたが。
(このように笑われる方であったか……)
感慨深く見入っていると、尻ポケットでブブブと鳴る気配がある。
携帯電話だ。
「おお、失礼いたす、政宗殿」
佐助を頼んでよろしいか?
「OkayDokay」
みっつの子どもは十の子どもに軽くはない。それでも少年独眼竜は気安くうなずいてベンチに座り、膝に子狐を迎え入れた。
「携帯電話かよ、幸村のくせにナマイキだな」
「なま」
こっくりとうなずく佐助に苦笑しながら、応対ボタンをプッシュする。
とたんに声が聞こえてきた。
何してるんですか幸村様!シャッターチャンス!シャッターチャンス!
――佐助の両親の声である。
つまり、仕事中のはずの幸村の部下の声である。
「お前たち、どこから見ている……」
それは職務上の秘密です。
そんなことよりせっかく奥州の伊達様とそろえたんですから、くれぐれもお願いしますね!
いえ、無論我ら真田忍隊、幸村様の手腕を信じておりますが――。
「待て、お前たち、なぜ今日の政宗殿の服装など」
それは職務上の秘密です。
強いて言えばデートには勝負服で来るものですし、伊達様はその辺りきっちり押さえていらっしゃるかなと。
交互にしゃべる男女の声に、幸村はクラクラする頭を手で押さえた。
元忍隊の諜報能力をフルに使い、佐助の前世が縁を喜ぶ――此奴らの真意とは。
(単なる面白本意……)
なのやも、しれない。
「わんわんどらごん」
「No,no,ワン、アイド、ドラゴン。独眼竜だぜ」
「どくがん、りゅ」
この世の真理を垣間見たような悟り顔の幸村のうしろ、当の佐助は小さな両手で、竜のフードの角など撫でてご機嫌のようだった。
「どくがんりゅーの、だんな」
+++
Twitterで見たドラゴンのパーカーがかわいかったので……。
399.99ドルとか書いてあったから、海外のものかな?“C algary C osplay”がメーカー名と思われます。
※毎度の事ながらモブ忍がしゃべります。
佐助の両親は共働きで、確かにあまり暇ではない。
幸村が直属の上司なのだから、その事情はよく心得ていた。――そのつもりだ。
だが、事あるごとに佐助を幸村に預け、色んな方に会わせてやってください、と送り出していた部下たちの真意はどこにあるのか。
――前世の縁を、大切に。
色んな方に、というのはもちろん、その前世に出会った人々のことだ。佐助の両親がそもそも、佐助と前の世で縁がある。だがもっと他に、当時の幸村が知るだけでも、四国の長曾我部や――奥州の独眼竜、伊達政宗が、今生に姿を現していた。
ただし独眼竜は、佐助と七つしか離れていない、小学生だったのだが。
「ワーオ、またずいぶんcuteなかっこうだな。たけだの忍び」
公園のベンチで待っていた伊達政宗少年は、ぴゅーうと器用に口笛を吹く。
その日の佐助は、たっぷりとしたパーカーを着せられていた。
色は蜜柑めいた明るい橙色で、フードをかぶれば綿の入った大きな三角の耳がたつ。背中のすそから垂れたしっぽは、筆の穂のように柔らかくふくらんで、すぼまる辺りは白くなっていた。
――つまり、狐の耳としっぽがついた上着なのだった。
キュート、の意味を何と思ったか、佐助はきゅっと唇を尖らせる。
「まさむね、きつね、きらい?」
というのも、佐助にこの服を用意した佐助の両親が、絶対にウケますよー間違いなし間違いなし!幸村様デジカメ持って行ってくださいね?と満を持して送り出したのだ。
あれだけ大騒ぎされれば気にもなるだろう。――単に、相手が政宗殿だからやもしれぬが。
「Han?きらいじゃねえよ」
そう言いながら、幸村に抱えられた佐助の頭を耳つきのフードごと、もふもふと撫でる。ニイと笑う。さわり心地もよかったのだろう――間違いなく、気に入った、という顔だ。
幸村にはそれがよく分かったから、まだ何か言いたげに唇をムニムニさせている佐助より、政宗の方に目を向けた。
「して、政宗殿」
「ん?」
「政宗殿の方の、それは――」
それは、黒いパーカーだ。パーカーと呼んでいいのか迷うところだが、フードがついてジッパーで前を閉じている。
耳がついている。
角もついている。
しっぽらしきものがついている。
羽も、ついている。強いて言えばコウモリめいた羽だ。
背中から尾にかけて、鰭のようなものがついている。
袖は手首に向かうにつれて太く広がり、手の甲の辺りには爪が、そして、この袖にも、鰭が。
さらに、所々に、鱗の飾りがついている。
――佐助のキツネさんパーカーより凝りに凝ったこれは、おそらく、間違いなく。
「竜にござるな」
言い当てられて、前世で竜と呼ばれた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「It's one eyed dragon!」
天然の牙とつり目に、金の眼。
右目は今世では無いまま生まれたらしいと、先に見つけた長曾我部元親に聞いていた。
――年の頃以外は、何も変わることなく。そう思っていたが。
(このように笑われる方であったか……)
感慨深く見入っていると、尻ポケットでブブブと鳴る気配がある。
携帯電話だ。
「おお、失礼いたす、政宗殿」
佐助を頼んでよろしいか?
「OkayDokay」
みっつの子どもは十の子どもに軽くはない。それでも少年独眼竜は気安くうなずいてベンチに座り、膝に子狐を迎え入れた。
「携帯電話かよ、幸村のくせにナマイキだな」
「なま」
こっくりとうなずく佐助に苦笑しながら、応対ボタンをプッシュする。
とたんに声が聞こえてきた。
何してるんですか幸村様!シャッターチャンス!シャッターチャンス!
――佐助の両親の声である。
つまり、仕事中のはずの幸村の部下の声である。
「お前たち、どこから見ている……」
それは職務上の秘密です。
そんなことよりせっかく奥州の伊達様とそろえたんですから、くれぐれもお願いしますね!
いえ、無論我ら真田忍隊、幸村様の手腕を信じておりますが――。
「待て、お前たち、なぜ今日の政宗殿の服装など」
それは職務上の秘密です。
強いて言えばデートには勝負服で来るものですし、伊達様はその辺りきっちり押さえていらっしゃるかなと。
交互にしゃべる男女の声に、幸村はクラクラする頭を手で押さえた。
元忍隊の諜報能力をフルに使い、佐助の前世が縁を喜ぶ――此奴らの真意とは。
(単なる面白本意……)
なのやも、しれない。
「わんわんどらごん」
「No,no,ワン、アイド、ドラゴン。独眼竜だぜ」
「どくがん、りゅ」
この世の真理を垣間見たような悟り顔の幸村のうしろ、当の佐助は小さな両手で、竜のフードの角など撫でてご機嫌のようだった。
「どくがんりゅーの、だんな」
+++
Twitterで見たドラゴンのパーカーがかわいかったので……。
399.99ドルとか書いてあったから、海外のものかな?“C algary C osplay”がメーカー名と思われます。
※前回同様オリジナル真田忍びがしゃべくります。
ぷっきゅ。ぷっきゅ。きゅ。
ぷっきゅ。ぷっきゅ。きゅうぅ。
小さな足がよちよちと、庭の木陰にしるす歩幅、響く音。
おもちゃめいた音に、しかし子どもは不満げだ。
オレンジ赤毛をふわふわと流した、まあるいおでこの下、どことなく寄せられた眉の間にあるかなしかの皺の影。
「……この音は、」
何だ、と真田が問うより早く、くっくですよー!と答えたのは子どもの両親、真田の部下である。
(くっく?)
長ったら歩き始めたと思ったらもう足音消すんですもの、音が鳴るやつ買っちゃいました。
やべーよコイツまじ天才だよ、長だから仕方ない。
でも音が気に入らないらしくて、ずーっと変な顔してるんですよね。幸村様からも何とか言ってやってください。
あ、電池きれそう。
ばかばか、動画モードにするの早いのよあんた。
すみません幸村様、だっこしてるとこ一枚お願いします~。
「む?」
写真を撮れということか、と両手を差し出せば、ありがとうございます!という歓声とともに、渡された。オレンジ赤毛の荷がとっしりと。
――どっしりと言うほどに重くはなく、だが確かに、命ひとつぶんの重さが。
はい幸村様、長、そのままそのままー。
デジカメのピ、パ、という音がすでに数回響いている。
楽しげな部下たちに、幸村は胡乱な目を向けた。
「……お前たちは順応が早すぎる」
彼らが長、長と子を呼ぶのは、この子どもが彼ら真田忍びの長であると信じているからだ。
――猿飛佐助であることを、疑っていないからだ。
だと言うのに、冗談にも見えないこの親さらしさは何なのか。
真田忍び何でもありですから。と、女は澄ました顔。
今のうちに弱み握っといてオムツかえた恩をうる所存です。と、男はニヤニヤしている。
自分の名が冠せられた忍び衆の不可解さに、真田は頭痛を感じた。
眉間にくっきりと刻まれた、皺。
それをふわふわと、撫でる気配がある。
「……」
「なんな、」
もみじの手と呼ぶには丸すぎる指が、眉間の辺りをいったりきたり。
――『旦那』という単語は今のところ、『なんな』に軟着陸している。
表情らしい表情のない子どもの顔は、表情を作ってばかりいたあの男に、逆に似つかわしいのかもしれない。
「む」
眉間の皺をゆるゆると解いて、幸村は息をついた。
――別に疑おうというのではない。
ただ、お前の柔軟さを引き継いだ部下ほどには、まだなれぬだけなのだ、と、心の中で詫びて。
「…もういいだろう。庭くらいそれがしは裸足で駆け回っていたぞ?」
おもちゃのような、ぷっくりとした靴に手をかける。
え、幸村様がそうおっしゃるならいいですけど。
ちゃんと見張っててくださいね。
「うむ」
――見張る。
石ころや木の棘だろうか?と庭を見回しながら、暖かな柔らかな重みを下に下ろす。
人間の一歳半のよちよち歩きなのだから、子猫ほどのスピードもあるまい。
――昔はお前の親の話など聞いたこともなかったが。
「今世では過保護なめおとの下だぞ、さす――?」
(む?)
下ろしたばかりの子どもが消えている。
(むむ?)
きょろきょろと見回すが、影も形もない。
あーあ、幸村様さっそく目離しちゃったんですかー?
まあ俺らも見てたつもりだったんですけどね!撒かれましたね!
そんなにあの靴いやだったんかね?
わっはっはと笑っている部下たちに、幸村はザア、と血の気が頭からひくのを感じながら立ち上がった。
「な、なにを呑気な!道路にでも出ていたらどうするつもりだ!?」
えー、そんなドジ踏みませんよ、長だもの。
長がドジ踏むのなんか幸村様がとんでもないことした時くらいだよな。
あと奥州関係ね。
え、何それ俺知らない。
ばか、くノ一はみんな知ってたよ?
て言うか、今なら幸村様が呼んでくれればすぐ来るんじゃね?
ははん、なるほど。
長ー、おさー、幸村様がお呼びですよー。
出てこないと減給ですよー。
「さ、佐助えええ!!」
呑気な呼び声に重ねるように、腹から叫べば、ザザッと頭上の枝が揺れた。
――そして、ボスッと腕におさまった。
「……」
幸村様ナイスキャッチー!
ぱちぱちぴーぴーと拍手口笛が鳴り響く中、オレンジ赤毛はまったく表情のない目で、幸村を見上げている。
鳶茶色に澄んだ眼。
「……佐助……」
やっぱりお前は靴をはけ。
その瞬間、子どもが浮かべた嫌そうな顔を、昔よく見ていた気がして、幸村は(すまんな)ともう一度、心の中だけで、詫びておいた。
それが二年前の話。
きゅ、きゅ、きゅ、と音をたてながら歩くオレンジ赤毛は、今日は子供用の甚平だ。黄色がかった褪せた緑。
その渋さに似合わぬ、ぷきゅぷきゅ靴を合わされて、わずかばかり不満げな顔をしている。
「祭りの雑踏ではぐれてはかなわんからな」
「おれさま、そんなどじ、ない」
だんなとちがう。
『なんな』はやっと『だんな』になった。
「む。では俺が迷子にならぬよう、はぐれないようにしろ」
小さな手を握って周りを見回せば、「おおい、」と手を振る銀髪が向こうから歩いてくる。雑踏にも隠れぬ背の高さ。
幸村と佐助は浴衣に甚平だが、あちちらはTシャツにジーンズだ。
「元親殿、」
「よお、待たせたか」
気のいい顔で笑う銀髪は左目に眼帯。そして。
「Hey,とっとと行こうぜ」
その胸のあたりまでもない背丈の、黒髪の少年は、右目に眼帯。
「政宗殿も浴衣は着られぬのですか」
「小十郎がいっしょじゃねえと着くずれがなおせないとか、うるせーんだ」
大人びた仕草で肩をすくめる。
――確か、小学四年生と聞いた。
「まさむね、」
佐助が幸村の手を握ったまま、きゅ、ぷきゅ、と二歩踏み出す。
政宗はその音に、猫めいた左目を軽く見開き、プーッと笑った。
「んだよ忍び、お子さまのクツじゃねえか!」
肩を震わせる素直な反応に、幸村が恐る恐る見下ろせば、橙赤毛はショックのあまり固まっている。
「ま、政宗どの」
「coolじゃねえなー」
「政宗殿!佐助の男心を汲んでくだされ!」
佐助が靴を脱いだら責任はとっていただきますぞ!?
ぷるぷると震える小さな手を握りしめて訴える幸村に、政宗は「Han?」と小首を傾げ。
「ま、いいけどな」
小さく地面を蹴って、シャーッと。
滑り寄った。
(――!?)
「政宗どの、今のは……」
「ああ、踵に滑車が入ってんだと」
答えたのは元親だ。
「今ガキの間で人気っつーか、よく見るヤツ」
「……なるほど……」
頷いて、幸村はしゃがみ込む。
「安心しろ佐助、政宗殿もお子さま靴だ」
「まさむねも?」
「Hey真田幸村、何のナイショバナシだ」
その毬栗めいた髪をむんずとつかみ、顔を寄せた政宗に、苦笑して。
「どちらもかっこいい靴にござる」
「「ふーん」」
特に喜んだ風もない子ども達の向こうから、「そこの団子ども、祭りが終わっちまうぞ」と元親が呼ぶ。
「よし、let's go!」
「ごー」
立ち上がれば、いつの間にか佐助の反対の手を、政宗がしっかりと握っていた。
――奥州の竜と呼ばれた隻眼の人をどこまで覚えているのやら。
その小さな手をもっと小さな手で握り返し、橙赤毛はすっかり機嫌をなおした様子で、ぷっきゅぷっきゅと歩き出す。
+++
『よっちりよっちりぴぷー、』と祭りを歩くちま佐助の『ぴぷー』を分析した結果、よくある音が鳴る靴じゃないかという仮説にたどりつきました。
でもひょっとしたら、祭りでよく売ってる吹くとクルクルが伸びる笛みたいなやつかもしれません。
ぷっきゅ。ぷっきゅ。きゅ。
ぷっきゅ。ぷっきゅ。きゅうぅ。
小さな足がよちよちと、庭の木陰にしるす歩幅、響く音。
おもちゃめいた音に、しかし子どもは不満げだ。
オレンジ赤毛をふわふわと流した、まあるいおでこの下、どことなく寄せられた眉の間にあるかなしかの皺の影。
「……この音は、」
何だ、と真田が問うより早く、くっくですよー!と答えたのは子どもの両親、真田の部下である。
(くっく?)
長ったら歩き始めたと思ったらもう足音消すんですもの、音が鳴るやつ買っちゃいました。
やべーよコイツまじ天才だよ、長だから仕方ない。
でも音が気に入らないらしくて、ずーっと変な顔してるんですよね。幸村様からも何とか言ってやってください。
あ、電池きれそう。
ばかばか、動画モードにするの早いのよあんた。
すみません幸村様、だっこしてるとこ一枚お願いします~。
「む?」
写真を撮れということか、と両手を差し出せば、ありがとうございます!という歓声とともに、渡された。オレンジ赤毛の荷がとっしりと。
――どっしりと言うほどに重くはなく、だが確かに、命ひとつぶんの重さが。
はい幸村様、長、そのままそのままー。
デジカメのピ、パ、という音がすでに数回響いている。
楽しげな部下たちに、幸村は胡乱な目を向けた。
「……お前たちは順応が早すぎる」
彼らが長、長と子を呼ぶのは、この子どもが彼ら真田忍びの長であると信じているからだ。
――猿飛佐助であることを、疑っていないからだ。
だと言うのに、冗談にも見えないこの親さらしさは何なのか。
真田忍び何でもありですから。と、女は澄ました顔。
今のうちに弱み握っといてオムツかえた恩をうる所存です。と、男はニヤニヤしている。
自分の名が冠せられた忍び衆の不可解さに、真田は頭痛を感じた。
眉間にくっきりと刻まれた、皺。
それをふわふわと、撫でる気配がある。
「……」
「なんな、」
もみじの手と呼ぶには丸すぎる指が、眉間の辺りをいったりきたり。
――『旦那』という単語は今のところ、『なんな』に軟着陸している。
表情らしい表情のない子どもの顔は、表情を作ってばかりいたあの男に、逆に似つかわしいのかもしれない。
「む」
眉間の皺をゆるゆると解いて、幸村は息をついた。
――別に疑おうというのではない。
ただ、お前の柔軟さを引き継いだ部下ほどには、まだなれぬだけなのだ、と、心の中で詫びて。
「…もういいだろう。庭くらいそれがしは裸足で駆け回っていたぞ?」
おもちゃのような、ぷっくりとした靴に手をかける。
え、幸村様がそうおっしゃるならいいですけど。
ちゃんと見張っててくださいね。
「うむ」
――見張る。
石ころや木の棘だろうか?と庭を見回しながら、暖かな柔らかな重みを下に下ろす。
人間の一歳半のよちよち歩きなのだから、子猫ほどのスピードもあるまい。
――昔はお前の親の話など聞いたこともなかったが。
「今世では過保護なめおとの下だぞ、さす――?」
(む?)
下ろしたばかりの子どもが消えている。
(むむ?)
きょろきょろと見回すが、影も形もない。
あーあ、幸村様さっそく目離しちゃったんですかー?
まあ俺らも見てたつもりだったんですけどね!撒かれましたね!
そんなにあの靴いやだったんかね?
わっはっはと笑っている部下たちに、幸村はザア、と血の気が頭からひくのを感じながら立ち上がった。
「な、なにを呑気な!道路にでも出ていたらどうするつもりだ!?」
えー、そんなドジ踏みませんよ、長だもの。
長がドジ踏むのなんか幸村様がとんでもないことした時くらいだよな。
あと奥州関係ね。
え、何それ俺知らない。
ばか、くノ一はみんな知ってたよ?
て言うか、今なら幸村様が呼んでくれればすぐ来るんじゃね?
ははん、なるほど。
長ー、おさー、幸村様がお呼びですよー。
出てこないと減給ですよー。
「さ、佐助えええ!!」
呑気な呼び声に重ねるように、腹から叫べば、ザザッと頭上の枝が揺れた。
――そして、ボスッと腕におさまった。
「……」
幸村様ナイスキャッチー!
ぱちぱちぴーぴーと拍手口笛が鳴り響く中、オレンジ赤毛はまったく表情のない目で、幸村を見上げている。
鳶茶色に澄んだ眼。
「……佐助……」
やっぱりお前は靴をはけ。
その瞬間、子どもが浮かべた嫌そうな顔を、昔よく見ていた気がして、幸村は(すまんな)ともう一度、心の中だけで、詫びておいた。
それが二年前の話。
きゅ、きゅ、きゅ、と音をたてながら歩くオレンジ赤毛は、今日は子供用の甚平だ。黄色がかった褪せた緑。
その渋さに似合わぬ、ぷきゅぷきゅ靴を合わされて、わずかばかり不満げな顔をしている。
「祭りの雑踏ではぐれてはかなわんからな」
「おれさま、そんなどじ、ない」
だんなとちがう。
『なんな』はやっと『だんな』になった。
「む。では俺が迷子にならぬよう、はぐれないようにしろ」
小さな手を握って周りを見回せば、「おおい、」と手を振る銀髪が向こうから歩いてくる。雑踏にも隠れぬ背の高さ。
幸村と佐助は浴衣に甚平だが、あちちらはTシャツにジーンズだ。
「元親殿、」
「よお、待たせたか」
気のいい顔で笑う銀髪は左目に眼帯。そして。
「Hey,とっとと行こうぜ」
その胸のあたりまでもない背丈の、黒髪の少年は、右目に眼帯。
「政宗殿も浴衣は着られぬのですか」
「小十郎がいっしょじゃねえと着くずれがなおせないとか、うるせーんだ」
大人びた仕草で肩をすくめる。
――確か、小学四年生と聞いた。
「まさむね、」
佐助が幸村の手を握ったまま、きゅ、ぷきゅ、と二歩踏み出す。
政宗はその音に、猫めいた左目を軽く見開き、プーッと笑った。
「んだよ忍び、お子さまのクツじゃねえか!」
肩を震わせる素直な反応に、幸村が恐る恐る見下ろせば、橙赤毛はショックのあまり固まっている。
「ま、政宗どの」
「coolじゃねえなー」
「政宗殿!佐助の男心を汲んでくだされ!」
佐助が靴を脱いだら責任はとっていただきますぞ!?
ぷるぷると震える小さな手を握りしめて訴える幸村に、政宗は「Han?」と小首を傾げ。
「ま、いいけどな」
小さく地面を蹴って、シャーッと。
滑り寄った。
(――!?)
「政宗どの、今のは……」
「ああ、踵に滑車が入ってんだと」
答えたのは元親だ。
「今ガキの間で人気っつーか、よく見るヤツ」
「……なるほど……」
頷いて、幸村はしゃがみ込む。
「安心しろ佐助、政宗殿もお子さま靴だ」
「まさむねも?」
「Hey真田幸村、何のナイショバナシだ」
その毬栗めいた髪をむんずとつかみ、顔を寄せた政宗に、苦笑して。
「どちらもかっこいい靴にござる」
「「ふーん」」
特に喜んだ風もない子ども達の向こうから、「そこの団子ども、祭りが終わっちまうぞ」と元親が呼ぶ。
「よし、let's go!」
「ごー」
立ち上がれば、いつの間にか佐助の反対の手を、政宗がしっかりと握っていた。
――奥州の竜と呼ばれた隻眼の人をどこまで覚えているのやら。
その小さな手をもっと小さな手で握り返し、橙赤毛はすっかり機嫌をなおした様子で、ぷっきゅぷっきゅと歩き出す。
+++
『よっちりよっちりぴぷー、』と祭りを歩くちま佐助の『ぴぷー』を分析した結果、よくある音が鳴る靴じゃないかという仮説にたどりつきました。
でもひょっとしたら、祭りでよく売ってる吹くとクルクルが伸びる笛みたいなやつかもしれません。
一歳になるという、部下の子どもの髪は真っ赤だった。真っ赤、と言うより赤みの強い橙色で、その色にあまりに見覚えがあったから、真田は妙に狼狽えた。
――そのうち会えるだろうと思いながら二十年と少し。
けれど、戦国の世で自分の影を勤めた十ほども年上の忍びが、この姿とは。
「おお……」
両手で支えればずしりと、それなりに重い。何やら生温かい。まるでタオルを着た湯たんぽだ。きょとんと真田を見つめる鳶色の眼は、びっくりするほど澄んでいる。その真意を覆い隠す笑みもない。
――それでも、これは、佐助なのだと思った。
いや、まあ、佐助って名前にしちゃったんですけどね。と部下は笑う。戦国の世で夫婦ともども真田忍びの一員であった記憶を持つ部下たちは、ともに黒髪だ。赴任先から帰ってきたばかりで火急の報せと言うから何かと思えばこれである。
この人ったら最初は私が長と密通したんじゃないかみたいな顔してたんですよ、幸村様も何とか言ってやってください。
いや、でもコイツが長見つけたらまず幸村様に突き出すに決まってるしなあって、すぐに誤解は解いたし。
それは私が言ったんですー。あんたは言われるまで凄い顔してましたー。
俺だって言われる前に思ったんだよ!あ、こりゃこいつが長なんだなって。
だからって呪われた名前つけちゃったよね。
……とりあえず幸村様、その危険物持つみたいな手つきやめてくれません?
「む!?」
できるだけ体から遠ざけるように伸ばした両腕の先、今生では槍など持ったこともない大きな両手に支えられた幼子は、笑いも泣きもしない。ついでに一言も発しない。
あ、一応しゃべりますよこいつ。
ほーら長ー、幸村様だよー、真田の旦那ですよー。
すると子どもはむにむにと唇を準備体操のように動かした。
「……んな?」
――ほとんど「にゃ」にしか聞こえない。
きゃー長よく言えたねー!と黄色い歓声をあげる部下たちを胡乱な目で見つめ、真田はひくりとひきつった顔で、笑った。
「佐助、うむ、なんだ、その、」
無事の誕生、大儀であったな。
それが二年前の話。
「あー、確かになあ。生まれてきただけでめっけもんってやつだ」
そう思えば何もかも、許せる気がする。
そう銀髪に左眼帯の男は言った。こう自己主張が激しくては間違えようもない。四国の海賊部将だ。
「あの方はまだ見つからぬのでござるか、元親殿」
「毛利なー、探しちゃいるんだが、頭のいい人形顔で日輪信仰ってだけじゃ分からねえやつには分からねえみたいでよ」
それに、年齢が絞れないとなるとな。
そうでござるなぁ。
うんうんと頷きあって、真田と長曾我部はそろってパフェのクリームを一口。
白いワイシャツにネクタイをしめた男がふたり、苺と抹茶のパフェを前に真剣な顔だ。横を通るウェイトレスは一瞬目にだけ疑問を乗せていく。あのパフェ、子どもたちの分だと思ったんだけど。そんな目で、真田の隣を過ぎていく。
子ども達。真田の隣の。
「Hey,長曾我部!こいつはおれにBirthday presentか?」
一日遅れだぜ、まったく。
まだ声変わり前のハスキーボイスは御機嫌だ。
「……、」
小学生だという右眼帯の少年の膝に乗せられて、橙頭は意味が分かっているのかいないのか、されるがままに頭をなで回されている。
「いや、プレゼントはこっちのつもりだったんだがな」
海賊が行儀悪くスプーンで指した真田を、猫めいた左目が「Han?」と見上げる。
「幸村はいりませぬか、政宗殿」
微笑むと、分かりやすく頬を紅潮させて、少年はニイと笑う。
「もらっといてやる」
「それは何より」
すると、橙頭は幸村を見て、政宗を見て、むうと唇を尖らせた。
「……おれさま、ぷれぜんと」
「おー、Thank you,たけだの忍び」
うりうりと橙頭に頬ずりする少年は、記憶にある好敵手より感情表現がストレートに見える。
――いや、しかし、まあ。
「独眼竜がこれだろ?」
ぼやくような元親の声に、幸村は何気なく振り向いた。
「竜の右目のやつ、高校生だった」
「……こ?」
航行生?
出会った頃には自分より何倍も大人びて見えた、オールバックと頬の傷の男前が。
(一回り下……)
「……」
「……」
「……いや、でもよぉ、お前なんか、忍びもこんなだし、そこまで衝撃的でもねえだろ?」
「佐助は元から、」
こんなもんだった気がするでござる。
「……」
「……」
「真田、こいつにjuice飲ませていいか?」
「では少しだけ」
「おい、お前、怒っていいんじゃねえか」
元親の言葉を解したか否か、小さな忍びは小さな竜の膝で、小さな頭を傾げてみせた。
***
『最果てにさけ』のさけの方、貝島です。
いや何か……最果ての方から受信した結果ですね……受信って言うか傍受って言うか……。
とにかく、一日遅れだけど筆頭お誕生日おめでとう!
織り姫は機織りの名手、彦星は働き者の牛飼い。
なのに結婚したら仲がよすぎて仕事をしなくなっちゃった。それで天帝が怒って二人を離ればなれにさせたんだ。
(一年に一度、七と七が重なる日にだけ逢瀬を許された夫婦)
Ha,また似合わねえ寝物語を仕込んで来やがって。あんたは一体なにがしたい。
だからさ、仕事は真面目にやらなくちゃ、恋しいお人と離ればなれにさせられちまうかもしれないだろ?
それであんたは『仕事』をするのか。
(天の河をはるばる渡り、愛しい人に会いに来る)
それであんたは、俺を殺すのか。
だって、仕方ないじゃない。……竜を殺せない忍びなんかになり果てたら、一年に一度だって会わせてもらえないだろ。
Han?
一生、会えなくなっちまうよ。
なるほどな。……OkayDokay,来いよ、忍び。
(この夜だけに許された)
「ただし今夜は七夕だ。あとの三百六十四日なら、あんたの『仕事』につきあってやるがな」
「うわ、何その都合のいい解釈!」
結婚を申し込みたい相手がいるのなら。
幸村「結婚していただきたい、と伝えればよいのでは?」
元親「結婚してくれ。……でいいじゃねえか」
元就「家同士の了承をとるのが定石であろう」
小太郎「…………」
かすが「……佐助、お前はまず相談相手を選べ」
【件名:覚悟した方がいい】
『本文:猿飛佐助がプロポーズの仕方を相談して回っている』
「Han?」
五者五様、しかし概ね同じ内容の忠告メール――気の合うところなど欠片もない連中が珍しいことだ。そう政宗は唇を釣り上げ、皮肉気に笑う。
――プロポーズ、か。
どうやら猿飛佐助のあのオレンジ赤毛の頭には、結婚願望などという可愛らしいものが存在したらしい。
順当に行けば、この面子の次は慶次か政宗。そう考えての皆の忠告だろう。
――OkayDokay,覚悟するさ。
『熱いのとか重いのとか、苦手でさ』
女とは長続きしない。
そう緩く笑う、捕らえ所のない男の顔を思い浮かべて。
覚悟しなければいけないのは、自分に限っては別れ話なのだと、政宗は誰にも返信できないまま部屋を出る。
――それとも、こちらから切り出してやらねばならないのか?
(Hey,冗談じゃねえぜ)
男ふたりでカフェに差し向かい。カフェでコーヒーを挟んで。
「この店、雑賀の伝で聞いてきたんだけど、豆の職人がついてるんだって」
「そうか」
短い答えに、猿飛は何か言い掛けたような唇を淡く閉ざした。
この場所も笑えない。飲み屋だとか食事どころだとか映画館だとか服屋だとか――あとは、Hotelとか。そんな、用向きのはっきりした場所ではない。いい珈琲豆があるなら買ってくればいいだけのこと。
――話がある、と言われたようなものなのに。
そもそも猿飛は饒舌な男ではある。無駄に喋っているばかりのようで巧みに煙に巻いかれるのだが、それにしても――しゃべる為だけに呼び出されたことなどついぞない。
「あの人が前田の旦那と組んだら結構な情報屋になれるんじゃないかな、ねえ伊達さん?」
「そうだな」
沈黙の降りるテーブルに差し込む光も酷く淡い。
オレンジ赤毛よりは大人しい、それでも明るい色の鳶茶の眼が、どこか上の空で窓の外を向いている。
天気は曇り。梅雨入りしたとかまだしないとか、はっきりしない雲行きだ。ただ空は暗く、空気はしとりと冷たい。先週会ったときは――落ち合ったのは夜で、その翌朝だ。綺麗に晴れて、夏を思わせる風が吹いていた。肌に当たるシーツが心地よかった。先にベッドを出た男の、着替える袖を引いた気がする。
(まだ帰らなくてもいいんじゃねえか?)
寝ぼけていても、そこまでは言わない。
けれど猿飛は政宗の髪を撫でた。汗の跡のない乾いた指。
それから、政宗の耳に唇を近づけて。
『ごめんね』
と、――そう言えば、そんなことを囁かれたんだった。あの時は気にも留めなかった。不意に珈琲が苦くなる。
豆はいいのだろうが――淹れるなら俺の方が上手い、とつい考えてしまう。
いつもなら、こんな店に呼び出すのではなく、豆だけ買って政宗を部屋に呼んだだろう。味は分かんないんだけどね、と緩く笑いながら。味など今はひとつだ。苦い。
政宗は一口、無理矢理飲み干して、息を吐く。
――そもそも、別れ話など必要ないのかもしれない。こいつがどんなつもりでどこの女と結婚するのか、知ったことじゃない。それでも。
(ケジメはケジメ、だろ)
「Proposeについて聞いて回ってるって?」
窓の外に向いていた目が、ぴ、と睫をふるわせた。
恐る恐る、とばかりに政宗の方をうかがいみる。思わず舌打ちして、政宗は苦い味に手を伸ばす。
「――誰に聞いたの」
「全員」
「うそだろぉ…」
力なくうなだれて、猿飛はため息をつく。
「信じらんない、普通そういうことバラす?」
「覚悟しとけ、とさ」
――苦い。苦い。酸っぱい。冷めた。
「……覚悟、してきたの」
(なんだ、その驚いた声は)
覚悟は、するまでもないと思っていたが。
――顔が見れないのは我ながら情けない。
「じゃあ、さ、いいかな」
「ああ」
「指輪、選んでもらっても」
「ああ、――あ?」
思わず顔を上げるが、相手はあじなど分からぬらしい珈琲を一気に飲み干すところだった。
――指輪?
「……まさかとは思うが、あんたのPropose用の指輪を、俺が選ぶのか」
「プロポーズ用って言うか、――結婚指輪?」
だって、俺より伊達さんの方が趣味がいいじゃない。
(フザケるな)
暗い怒りがぶわりと広がって――四散した。
ゆるゆると首を振る。
「……I see.」
指輪。
――俺が、選んだやつを、ずっとはめていくなら。
それもいいか、とため息を殺した。
「近くにいい店があるらしいから」
上機嫌に言われて、――やっぱり締めるか。と殺気を覚えたのはわずか30秒後のことである。
「Size分かってんのか?」
「見れば分かるよ」
「Han,選び慣れてんじゃねえか」
「いや、でも、これは特別だから」
歩く足がいつもより早い。どこか浮き足立っている。
そう気づいて、怒りに勝ったのは――虚さだった。
(結婚……)
どうせどこかの、適当な女が相手だろうて思っていた。
――そうでないとしたら。
本気の相手だとしたら。
(選んでやるなんざ、言うんじゃなかったか)
「なんか、降り出しそうだね」
「梅雨だからな」
「うん、梅雨だ」
ジューンブライドかあ、と冷たい風に溶ける声。
――験をかつぐ男だとは知らなかった。
何も知らなかったのだとしたら、それは目の前を歩く男とのこの先が無いことより、悔しいような気がして、政宗は空を見上げた。
さっさと降り出せばいい、と、そう思った。
キラキラと光る最初の一粒。
「結婚指輪なんで、石のついてないやつで」
「はい、それでしたらこちらなどいかがでしょうか」
カジュアルなデザインで若い方に人気の品です。素材がプラチナですのでフォーマルな場所にも合いますし、一生物になりますかと。
「――もうちょい細いやつは?」
「少々お待ちください、」
女性の店員は乱れなく会釈して、店の奥に下がる。三分と待たせずに出てくる。五度目だというのに嫌な顔ひとつせず、確実に政宗の注文にそってくる。
――なるほど、いい店だ。
「こちらはいかがでしょうか、先ほどのものより少しお値段は張りますが」
そして商売上手である。
どうせ猿飛の財布だしなあ、と隣を見れば、鳶茶色と目があった。
――指輪を見ろ。
「うん、いいね」
――値札も見ろ。
見たか見ないか分からぬうちに、猿飛は顔を上げた。
「これの13号あります?」
奥に入るまでもなく、白い箱が出てくる。何種類かサイズ違いのある中から、「お直しもできますので」と示されたリングを、長い指がつまみあげて。
「いいですかね」
と、にこやかに入れた断りは目の前の店員に。
指輪をはめたのは、政宗の指に。
――左手の、薬指に。
「……」
「あ、ぴったりですね」
「ですねー色もいい感じでホブァ!!」
入れた拳が右だったのは猿飛の頬骨ではなく、指輪がひしゃげるのが忍びなかったからだ。
「痛いよ!何すんだよ伊達さん!」
「テメエこそ何してやがんだ猿飛!!」
「……?サイズを確かめてました」
「そうじゃねえ!」
「伊達さんの肌の色に合うか確認を」
「んなこた聞いてねえ!!」
「じゃ何!何なの突然、……あ」
そこでハタと猿飛は、目を丸くしている店の女性に目を向けた。
「すみません」
「いいえ」
店員はあくまで笑みを崩さない。
「女性でも男性でも珍しくないことですので」
どうぞごゆっくり、とお辞儀をひとつ、女性は奥に下がってしまう。
残されたのは、政宗と。
「大丈夫だよ、政宗さん」
ふたりきりになると途端に名前の方を呼ぶ、佐助だけ。
「この店同性カップルもよく来るらしいから。前田の旦那が教えてくれてさ、店員さんも口が固いって評判で」
「……何が大丈夫だ……」
――言葉の意味が分からない。まるで分からない。
「だって政宗さん、覚悟決めてきてくれたんでしょ?」
「……覚悟、」
同じくらいに分からない、という顔で、佐助は政宗の目をのぞきこむ。
「俺様にプロポーズされる覚悟、してきたんじゃないの?」
【件名:独眼竜を保護しているんだが】
『本文:猿飛に頭突きと肘鉄と膝蹴りをくらわせて逃げてきて指輪は店に取り置きを頼んだとか喚いていて、ワシには事態がさっぱりだ。
詳細求む。
家康』
「もしもし」
『家康か!』
「元親だな、メールは見てくれたか」
『それだそれ、悪ぃ、猿飛に見られちまって、たぶんあいつ今そっち向かってっから――』
「そうか。問題ない、今夜は三成もいっしょにファミレスか漫画喫茶に籠城する予定だ。それで何があった?」
『何っつーかなあ……』
だから、覚悟しておけとみんな言ったのに。
+++++
クリスマスに言ってた武田商事営業二課の猿飛さんと伊達社長のつもりで。
幸村「結婚していただきたい、と伝えればよいのでは?」
元親「結婚してくれ。……でいいじゃねえか」
元就「家同士の了承をとるのが定石であろう」
小太郎「…………」
かすが「……佐助、お前はまず相談相手を選べ」
【件名:覚悟した方がいい】
『本文:猿飛佐助がプロポーズの仕方を相談して回っている』
「Han?」
五者五様、しかし概ね同じ内容の忠告メール――気の合うところなど欠片もない連中が珍しいことだ。そう政宗は唇を釣り上げ、皮肉気に笑う。
――プロポーズ、か。
どうやら猿飛佐助のあのオレンジ赤毛の頭には、結婚願望などという可愛らしいものが存在したらしい。
順当に行けば、この面子の次は慶次か政宗。そう考えての皆の忠告だろう。
――OkayDokay,覚悟するさ。
『熱いのとか重いのとか、苦手でさ』
女とは長続きしない。
そう緩く笑う、捕らえ所のない男の顔を思い浮かべて。
覚悟しなければいけないのは、自分に限っては別れ話なのだと、政宗は誰にも返信できないまま部屋を出る。
――それとも、こちらから切り出してやらねばならないのか?
(Hey,冗談じゃねえぜ)
男ふたりでカフェに差し向かい。カフェでコーヒーを挟んで。
「この店、雑賀の伝で聞いてきたんだけど、豆の職人がついてるんだって」
「そうか」
短い答えに、猿飛は何か言い掛けたような唇を淡く閉ざした。
この場所も笑えない。飲み屋だとか食事どころだとか映画館だとか服屋だとか――あとは、Hotelとか。そんな、用向きのはっきりした場所ではない。いい珈琲豆があるなら買ってくればいいだけのこと。
――話がある、と言われたようなものなのに。
そもそも猿飛は饒舌な男ではある。無駄に喋っているばかりのようで巧みに煙に巻いかれるのだが、それにしても――しゃべる為だけに呼び出されたことなどついぞない。
「あの人が前田の旦那と組んだら結構な情報屋になれるんじゃないかな、ねえ伊達さん?」
「そうだな」
沈黙の降りるテーブルに差し込む光も酷く淡い。
オレンジ赤毛よりは大人しい、それでも明るい色の鳶茶の眼が、どこか上の空で窓の外を向いている。
天気は曇り。梅雨入りしたとかまだしないとか、はっきりしない雲行きだ。ただ空は暗く、空気はしとりと冷たい。先週会ったときは――落ち合ったのは夜で、その翌朝だ。綺麗に晴れて、夏を思わせる風が吹いていた。肌に当たるシーツが心地よかった。先にベッドを出た男の、着替える袖を引いた気がする。
(まだ帰らなくてもいいんじゃねえか?)
寝ぼけていても、そこまでは言わない。
けれど猿飛は政宗の髪を撫でた。汗の跡のない乾いた指。
それから、政宗の耳に唇を近づけて。
『ごめんね』
と、――そう言えば、そんなことを囁かれたんだった。あの時は気にも留めなかった。不意に珈琲が苦くなる。
豆はいいのだろうが――淹れるなら俺の方が上手い、とつい考えてしまう。
いつもなら、こんな店に呼び出すのではなく、豆だけ買って政宗を部屋に呼んだだろう。味は分かんないんだけどね、と緩く笑いながら。味など今はひとつだ。苦い。
政宗は一口、無理矢理飲み干して、息を吐く。
――そもそも、別れ話など必要ないのかもしれない。こいつがどんなつもりでどこの女と結婚するのか、知ったことじゃない。それでも。
(ケジメはケジメ、だろ)
「Proposeについて聞いて回ってるって?」
窓の外に向いていた目が、ぴ、と睫をふるわせた。
恐る恐る、とばかりに政宗の方をうかがいみる。思わず舌打ちして、政宗は苦い味に手を伸ばす。
「――誰に聞いたの」
「全員」
「うそだろぉ…」
力なくうなだれて、猿飛はため息をつく。
「信じらんない、普通そういうことバラす?」
「覚悟しとけ、とさ」
――苦い。苦い。酸っぱい。冷めた。
「……覚悟、してきたの」
(なんだ、その驚いた声は)
覚悟は、するまでもないと思っていたが。
――顔が見れないのは我ながら情けない。
「じゃあ、さ、いいかな」
「ああ」
「指輪、選んでもらっても」
「ああ、――あ?」
思わず顔を上げるが、相手はあじなど分からぬらしい珈琲を一気に飲み干すところだった。
――指輪?
「……まさかとは思うが、あんたのPropose用の指輪を、俺が選ぶのか」
「プロポーズ用って言うか、――結婚指輪?」
だって、俺より伊達さんの方が趣味がいいじゃない。
(フザケるな)
暗い怒りがぶわりと広がって――四散した。
ゆるゆると首を振る。
「……I see.」
指輪。
――俺が、選んだやつを、ずっとはめていくなら。
それもいいか、とため息を殺した。
「近くにいい店があるらしいから」
上機嫌に言われて、――やっぱり締めるか。と殺気を覚えたのはわずか30秒後のことである。
「Size分かってんのか?」
「見れば分かるよ」
「Han,選び慣れてんじゃねえか」
「いや、でも、これは特別だから」
歩く足がいつもより早い。どこか浮き足立っている。
そう気づいて、怒りに勝ったのは――虚さだった。
(結婚……)
どうせどこかの、適当な女が相手だろうて思っていた。
――そうでないとしたら。
本気の相手だとしたら。
(選んでやるなんざ、言うんじゃなかったか)
「なんか、降り出しそうだね」
「梅雨だからな」
「うん、梅雨だ」
ジューンブライドかあ、と冷たい風に溶ける声。
――験をかつぐ男だとは知らなかった。
何も知らなかったのだとしたら、それは目の前を歩く男とのこの先が無いことより、悔しいような気がして、政宗は空を見上げた。
さっさと降り出せばいい、と、そう思った。
キラキラと光る最初の一粒。
「結婚指輪なんで、石のついてないやつで」
「はい、それでしたらこちらなどいかがでしょうか」
カジュアルなデザインで若い方に人気の品です。素材がプラチナですのでフォーマルな場所にも合いますし、一生物になりますかと。
「――もうちょい細いやつは?」
「少々お待ちください、」
女性の店員は乱れなく会釈して、店の奥に下がる。三分と待たせずに出てくる。五度目だというのに嫌な顔ひとつせず、確実に政宗の注文にそってくる。
――なるほど、いい店だ。
「こちらはいかがでしょうか、先ほどのものより少しお値段は張りますが」
そして商売上手である。
どうせ猿飛の財布だしなあ、と隣を見れば、鳶茶色と目があった。
――指輪を見ろ。
「うん、いいね」
――値札も見ろ。
見たか見ないか分からぬうちに、猿飛は顔を上げた。
「これの13号あります?」
奥に入るまでもなく、白い箱が出てくる。何種類かサイズ違いのある中から、「お直しもできますので」と示されたリングを、長い指がつまみあげて。
「いいですかね」
と、にこやかに入れた断りは目の前の店員に。
指輪をはめたのは、政宗の指に。
――左手の、薬指に。
「……」
「あ、ぴったりですね」
「ですねー色もいい感じでホブァ!!」
入れた拳が右だったのは猿飛の頬骨ではなく、指輪がひしゃげるのが忍びなかったからだ。
「痛いよ!何すんだよ伊達さん!」
「テメエこそ何してやがんだ猿飛!!」
「……?サイズを確かめてました」
「そうじゃねえ!」
「伊達さんの肌の色に合うか確認を」
「んなこた聞いてねえ!!」
「じゃ何!何なの突然、……あ」
そこでハタと猿飛は、目を丸くしている店の女性に目を向けた。
「すみません」
「いいえ」
店員はあくまで笑みを崩さない。
「女性でも男性でも珍しくないことですので」
どうぞごゆっくり、とお辞儀をひとつ、女性は奥に下がってしまう。
残されたのは、政宗と。
「大丈夫だよ、政宗さん」
ふたりきりになると途端に名前の方を呼ぶ、佐助だけ。
「この店同性カップルもよく来るらしいから。前田の旦那が教えてくれてさ、店員さんも口が固いって評判で」
「……何が大丈夫だ……」
――言葉の意味が分からない。まるで分からない。
「だって政宗さん、覚悟決めてきてくれたんでしょ?」
「……覚悟、」
同じくらいに分からない、という顔で、佐助は政宗の目をのぞきこむ。
「俺様にプロポーズされる覚悟、してきたんじゃないの?」
【件名:独眼竜を保護しているんだが】
『本文:猿飛に頭突きと肘鉄と膝蹴りをくらわせて逃げてきて指輪は店に取り置きを頼んだとか喚いていて、ワシには事態がさっぱりだ。
詳細求む。
家康』
「もしもし」
『家康か!』
「元親だな、メールは見てくれたか」
『それだそれ、悪ぃ、猿飛に見られちまって、たぶんあいつ今そっち向かってっから――』
「そうか。問題ない、今夜は三成もいっしょにファミレスか漫画喫茶に籠城する予定だ。それで何があった?」
『何っつーかなあ……』
だから、覚悟しておけとみんな言ったのに。
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クリスマスに言ってた武田商事営業二課の猿飛さんと伊達社長のつもりで。
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