戦国BASARA・腐向け・サスダテ中心・本館(サササケ)を見ている方向け。
女体化とか幼児化とか遠慮なく出てきますのでご注意ください。
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2010年、結婚してますシリーズにはじまり結婚してますシリーズに終わります。
それではみなさま、よいお年を!とう!!
はじめての紅葉狩り。
朱色の中、佐助は山木の枝を渡った。
冬ぞめの奥州、その山中。
細い川を囲うようにもみじが並び、薄い葉は透けるような緑から黄へ紅へと鮮やかに色を重ねている。
忍びの脚はその枝を揺らさない。
風だけがはらはらと、みなもに紅の葉を落としている。日の光が冷たい水を照らし葉を照らして、きらきらと輝かせる。
忍びの目はそれを見ない。
朱色の中、蒼を探して、佐助は枝を渡った。
――蒼は、独眼竜の好む色。
つまり、佐助の嫁の好む色である。
つまり、佐助の嫁は独眼竜こと奥州筆頭伊達政宗なのである。
この件に関して様々な疑問が――特に婿本人にはあるわけだが、とにかくそういうことになっている。
確かに伊達政宗は男で、さらに奥州を治める国主という忍びとは比べ物にならないような身分の人間であり、下克上かと言われれば、いやいや俺様あの人の部下じゃないし、と佐助は首を振るほかない。しかしお互い白無垢と紋付袴で祝言は挙げたし、甲斐武田軍の信玄公や真田幸村は独眼竜を指して『お前の嫁』とのたまうし、奥州伊達軍が参謀片倉小十郎など佐助を『婿殿』と呼んで、立ち居振る舞いに遠慮なく文句をつけてくるのである。
――逆に言えば、確かに挙式はしたしそういう扱いになってはいるが、まったくもって意味が分からない。
伊達政宗を最初に目にしたときのことを、佐助は思い出す。
戦場の幟、戦塵、乱戦の最中。
――あまりに鮮やかな蒼と、三日月立ての兜と、雷光のごとき迫力。
狂気に憑かれたような笑みの、見開いた独眼の金色も、獣のように牙をむいた口元も。
(どっちかってえと、関わりたくない部類のお人で)
未だ若く、止まることさえ知らないような戦莫迦。
――それが、同じく戦莫迦の上司とかち合ったばかりに、話は一転する。
虎の若子と呼ばれる真田幸村、佐助の年若い上司と独眼竜は互いを好敵手と認め、繰り返し戦場で邂逅しては刃を交える間柄となった。
この好敵手と言うのが曲者で、決して憎みあってはいないふたりである。勢い文のやり取りなどはじまり、武田軍と伊達軍の同盟が相成った。
佐助は戦忍びである。
戦場ですでに幾度か独眼竜と遭遇し、煙に巻き、遁走し――まあ運が悪ければやはり得物の手裏剣を出さざるを得ない。同盟の場の末席さえ占めたのだから、嫌でも顔見知りだ。
そこで武田のお館さまこと信玄公と幸村が、何かと奥州の近況を知りたがっては佐助を奥州に走らせるようになった。諜報は忍びの任務のひとつではあるが、こいつはすでに圏外のお仕事だ、と佐助はこめかみを押さえたものである。
ここまでは武田軍の気風を知っていればこそ、自然な流れと佐助も心得ている。超過勤務についてはいささか納得いかないが、諦めた。
(で、)
――そうこうしているうちに、事故のような状況で挙式する運びとなり、今に至る。
(うん、これは、不自然)
流れが滝に落ちるならまだしも、岩肌を登って別の川に合流するかのような不自然さだ。
トン、とかえでの一枝に足を止めた。
忍びの足元、黄金色のひと葉がひらりと落ちて、紅に染まる川に色を添える。
小雪も間近の奥州だが、日の高いうちはまだ温かみがあるようだ。
かいま見える空は、清しい青。
竜の陣羽織は、より深い蒼である。
奥州城に走らされるようになってから――さらにはここ数ヶ月の通い婿生活で知った、竜の普段使いの着物にも、青が多い。
藍や空色、竜胆めいた紺紫を、季節に合わせ天気に合わせ、生成りや木賊や烏羽色と重ねている。
北国の人間らしい白い肌と、金茶にすける黒髪と、金色の独眼に――青はよく似合う。
着物の色あわせなどとんと分からぬ佐助だが、自分の嫁は青が好きなのだと、それだけは理解していた。
武田の赤と、あつらえたように正反対の。
――だから。
川の上流、もみじが傾いで低く枝を這わせる水辺。
そこに馬を連れて立つ、人影に――。
不思議なものでも見るかのように、瞬きをふたつ。
佐助はかえでの枝を蹴った。
佐助の元に黒脛布のひとりがやってきたのは、昨夜のことである。
どうしたことかと訊ねれば、奥州忍びは隠す様子もなく、佐助の嫁が行方不明であると述べた。
――正確には、城の者にきちんとした行き先を告げずに出かけたということである。
例によって例のごとく、と言うべき実例がどれほど存在するのか佐助も聞くことをためらったものだが――独眼竜は影武者を置き、ひとにぎりの家臣に言伝を残して、数日の約束で城を離れたらしい。
行く先は。
『山』
という簡潔なものであったという。
独眼竜を警護する奥州の忍びたちはそんな時、黙々と竜に付き従うのが常なのだそうだ。仲間にも出立以外は知らせずに行く。佐助の元に来た忍び使いは、便りがないのは無事の証拠――とばかりに泰然としていた。それでいいのか、黒脛布。
――それでよくないのが、言伝を影武者からうけとった家臣である。
何を隠そう忍び使いを佐助の元によこしたのは、竜の右目と名高い片倉小十郎景綱だ。
“何か知らねえか”
これも簡潔な問いである。
はっきり言って、佐助は何も知らない。知るはずもない。何しろ奥州と甲斐に分かれた遠距離新婚生活だ。佐助が最後に嫁に会ったのは、かれこれひと月以上は前である。
何だかんだ言ってこんなに間を空けたのは初めてだなあ、とは佐助も思う。
『最近、見てねぇな…』
佐助の嫁は姿を消す前、庭のかえでの黄から朱にうつる葉を見て、そんなことをつぶやいたのだそうだ。
それを何気なく耳にした片倉小十郎も、その時はまさか我らが政宗様がとんと姿を見せない橙赤毛の婿殿に会いたがっている――などとは思わなかった。たぶん正直なところ、婿の存在さえきれいに忘れていただろう。
だが、政宗が姿を消したとなれば話は別。
もちろん政宗様を信頼している、信頼してはいるが、どこの山にLet's Partyしているか最悪の想像、想定、予防を心がけるのが忠臣の役目――そう考えた片倉小十郎の“最悪の想像”のひとつとして、婿殿のいる甲斐か信濃の『山』がはじき出されたわけだ。強いて悪意的な考えを排除すれば、この場合の“最悪”は婿である猿飛佐助の存在ではなく、奥州より外の『山』に独眼竜がひとりホイホイと遊びに行っている場合を指している。
――そういうことにしておこう。
伊達軍参謀の思考を推察して、佐助は自分も少し、首をひねった。
そして黒脛布の去り際に、奥州の――紅葉の名所を、教えてもらった。
何しろ佐助の嫁は、風雅を好む。
素直に考えれば、独眼竜が『最近、見てねぇ』のはどこかの紅葉のことであろう。
中秋の名月のときも同じような推論で、佐助は月見の名所を片倉氏に教えてもらったものだ。経験が活かされている。
――あの時と違うのは、独眼竜が探されることを望んでいるか否かということ。
それだけが少し、気がかりだった。
それでも、来てしまった。
そして今、佐助の嫁は、左目をわずかに見開いて――自分の婿を見つめている。
「猿飛?」
幻でも見るような顔をされて、佐助は誤魔化すように頬を掻き、ト、と川辺に降りた。
「どうも。お邪魔しますよ」
「…邪魔じゃねえけど」
どうしてここが分かった?
と、首をかしげる独眼竜。
降りた体勢のまま、膝をついて見上げれば、日ざしを背負った影は紅い輪郭。
――もみじの紅に、溶けこむような。
「鬼火を見た、なんて噂がふもとで流れてたもんで。夜に篝火でも焚いた?」
「焚いたな」
黒毛の馬が水を飲もうと首をかがめる、その鬣を撫でて竜は笑った。
鳥のさえずりが川辺に響く。
「夜のもみじを照らしてみたくて――Ah,お前も昨日の夜来ればよかったんだ」
きれいだった。
金色の目を細める。その金色と、女とは違う、けれど白い肌とまとめられた黒髪に。
――紅の羽織はあまりに鮮やかだ。
漆黒の小袖、袴は同じ黒でも裾は黄金にとけこむ様。それに紅朱を重ねて、もみじの染まる列に紛うようにさえ見える。
――なんと言うか、とても。
(いやいや、珍しいだけのこと!)
青だ青だと思い込んでいたから、思いがけない彩に戸惑って――。
――見とれてるわけじゃない。
と、佐助はしかめつらしい顔をして嫁を見た。
「片倉の旦那が心配してたよ?」
「ああ、俺はあいつが禿げないか心配だ」
にやりと佐助の嫁は笑う。
つられて、佐助の慣れないしかめっ面も崩れてしまう。
「…あんたは?」
「え?」
問う声に思わず首をかしげると、独眼竜ははたと口を閉じて、誤魔化すように前髪をかきまわした。くしゃくしゃと若い竜らしい仕草、袖がするりと二の腕まで落ちる。
「あんたは、それで、小十郎に言われてここまで来たのか。それとも信玄公から何か?」
「えーと…」
今度は佐助が口ごもった。
――言い訳など考えてこなかった。
ただ、単に。
「有給とれたんで」
鳥が鳴いた。
「Vacation?」
返る声があった。
しばらく、そうして、鳥の声ばかりが響いた。
「…じゃあ」
ちょっとつきあえ。
と、佐助の嫁は言う。
どこへでも。
佐助は答える。
もみじ狩り。
独眼竜が口にすると、なにやら不穏な響きである。
――戦場で見慣れた六爪をYa-Ha-!!と操って、紅葉という紅葉をすべて落としてしまうのではあるまいか。
一足早く裸になる木々と、紅葉の葉に埋もれてご満悦な嫁の姿が目に浮かんで、佐助はまぶたを押さえた。
「Hey,あんた今なに考えた?」
「いえいえ、みなもが眩しくて」
そうか?と独眼竜はかぶりなおした笠の影から、川辺にちらりと目をくれる。
「…ちょっと眩しいかもしれねえな。でも、水の綾がもみじにうつって粋じゃねえか」
指さす先を見れば確かにもみじが低く広げた枝の、葉が重なってひさしになった裏に、水面の影が揺れていた。
それが粋なのかどうなのかは、佐助に分かることではなかった。
ただ、独眼竜はこういうものも好きなのか、と増えた雑学を頭に書き足すことは忘れない。
川辺を外れ山を峰のほうに上るのだと言われて、馬の手綱の取り合いになった。
「だって竜の旦那、馬に乗っちゃったほうがいいでしょ」
「Shut up.こいつは俺の言うことしかきかねえよ」
確かに聞かん気の強そうな汗馬である。
佐助はその黒い艶々した目としばし会話を試みた。アタシ、あんたなんかに手綱はとらせないわよ!そう言われた気がした。
「じゃあ俺が先に行きますから…」
山の土を踏んで、振りかえる。
「そこの岩、気をつけて」
「ん」
差し出した手を自分で疑問に思う間もなく、紅い袖から伸びた旅装の篭手の、六爪の蛸が出来たその指が乗せられて、佐助はそんな嫁の手をしっかりと握り返していた。
鳥の声がうるさいほどだ。
(冷やかすな!)
佐助は心の中で叫んだ。
一歩のぼれば、自然に解ける。あっさりと手を預けていた独眼竜の様子は何とも――おひいさまらしい、もとい、殿様らしい鷹揚さだ。
山を登る足取りはお互い慣れたものである。
ふりかえれば、悠々と馬を引いて歩む紅い羽織。お忍びの殿様と言うにはあまりに派手だ。しかしこの姿で刀は大小左の腰、六爪さえ携えていないのだから、独眼竜の印になるのは右目の眼帯のみだった。
――見つけて欲しくなかったのだろうか。
そんな考えが、再び佐助の橙赤毛の下に浮上する。
人間ひとりになりたいときもあるだろう、始終家臣に取り巻かれているならなおさらだ。というのが一般論。
――なにか悩み事でもあるんじゃないか。
何かまたお家騒動の種でも抱えているのでは。というのは佐助の推論だ。
そもそも自分がこうして独眼竜の婿でいるのだって、伊達家のお家騒動の一環ではないのか?と佐助はうすうす思っている。お家騒動でなければ城中総出の冗談じゃないのか、と疑いを濃くもしている。
しとしとと雨の振る、梅雨の日のことだった。
独眼竜は真白い花嫁衣裳で奥州城のひと部屋に座していた。
そして、自分はこの部屋に最初に入った男と結婚しなければならない、とのたまった。
――冗談に聞こえるだろうがこれは事実である。事実ならば目をそらしてはならない。
そらさなかった結果がこれなんだけどなあ、と佐助は鼻の頭の泥化粧を掻く。
部屋に入っただけで、婿。独眼竜が男であるという一点を除けば御伽噺のような話でもある。独眼竜は男なのだから開いた口がふさがらない。
――ふさがらないうちに人が集まってしまったのが敗因だ。
しかし勝った負けたで言えばどうやら佐助は、うっかり勝ってしまったらしい。
部屋に押しかけた女中達は、落ち武者の様で気絶した片倉小十郎景綱をかかげていた。そして花嫁の部屋の闖入者に目を丸くした。なんてこと!と誰かが叫んで、うしろから覗き込もうとした女達で雪崩が起こる。
くずれた人だかりの後ろに立っていたのは。
『母上』
伊達政宗にそれはよく似た顔立ちの、青い内掛けの女人であった。
『母上。これは他国のものです。無効に』
女人は刺すように佐助を見つめ、それから手を伸ばして、片倉小十郎の襟首をぐいとつかむ。
目をしばたく竜の右目にかすれた声で何かささやく。
そして、花嫁には一言もかけず、一瞥もくれず、立ち去った。
――奥州伊達家に最上から嫁いだ母親と、伊達家を継いだ独眼竜は、折り合いが悪いと聞く。
いつの間にか襟を正した片倉氏が静かな所作で、花嫁衣装の主君の前に膝をついていた。
『小十郎』
『すべて――決めた通りに、とのお言葉』
『そうか…』
独眼竜は綿帽子の影で、目を閉じる。ギラッと見開く。佐助を見る。
『武田の忍び』
向き直り、意を決したように三つ指ついて――ではなく手を突いて、深々と頭を下げた。
『何も聞かずに――俺と結婚してくれ』
佐助は驚愕した。
言われた内容より何より、あの独眼竜が頭を下げていることに驚愕した。
『いや、そのっ、え?』
『すまねえ。あんたも迷惑だろうと思う。だがこの通りだ』
顔が見えない。真白い衣装と綿帽子だけ。驚愕は混乱に変わった。
――これは誰だ。
戦莫迦の独眼竜はどこだ。
あの青は。
『いえあの、いいから!いいから顔を上げてください!』
『いいのか!』
佐助は叫んだ。ガッと花嫁の顔が上がった。爛々と目の光る独眼竜の顔だ。
ホッとしたのと――ん?と思うのは同時だった。
――よくはない。よくはない。そういうつもりの『いい』ではないんだけど、あれ?
否定するより早く怒号が響いた。
『筆頭!』
『おめでとうございやす筆頭おおお!!』
『うおおおお筆頭が嫁にいっちまうなんて!!!』
押し寄せたのは佐助も見慣れた伊達軍の兵士達である。
『落ちつかねえか、手前ら!!』
一喝が雷のように落ちる。片倉小十郎だ。流石は伊達軍参謀、竜の右目!この混乱をおさめてくれ!と佐助は救いを求めた。
『政宗様は嫁になんざ行かねえ…』
入り婿に決まってるだろうが!!
『あんたが落ちついてくれ片倉の旦那』
竜の右目は真剣な顔で、はらりと乱れた前髪をなでつける。
『俺は落ちついているさ。猿…いやこれからは、伊達飛佐助だな』
『いやその名前の切れ目は猿じゃなくて、猿飛っ』
『じゃあ伊達佐助か。すわりが悪い。改名したらどうだ婿殿、伊達…半蔵とか全蔵とか』
『猿飛佐助の跡形もない!』
――思い出すだけで頭が痛い。
叫ぶ兵。はりきって挙式の支度を進める女中たち。改名を勧める竜の右目。
混沌であった。
混沌の中に佐助の上司ふたりが到着し混沌の輪を広めたことは言うまでもない。
――しかしこうしてつらつら思い返せば、伊達家の不和がどうこう言うより、自分の不用意なひと言が全てを決定づけたような、そんな気が。
「猿飛」
「はいっ」
びくりと振り返れば紅い羽織の独眼竜は笠を上げ、怪訝な顔で佐助を見上げている。
「…疲れてんのか?ボーっとして」
「いやいや疲れてなんか――山の気配を探ってただけだよ。うん」
「Oh,Ninja!!」
佐助のでまかせをあっさりと信じた様子で、独眼竜は目を輝かせた。
こういうところは無闇に無邪気な佐助の嫁である。
「あそこ、崖が張り出してんの、見えるか?」
「あーはいはい」
「あそこに行きたい。西の方に折れればあそこまで登っていけるはずなんだ」
指さしてYou see?と首をかしげるのに、はいよと答えた。
山の木々はそれぞれに色を落とし、もみじの紅やかえでの黄金とはまた違った、朱色や鳥子色の枝を混ぜあわせている。独眼竜が目指す腰かけにはもみじが一本ひょろりと生えて枝を広げ、紅に染まりきった葉がひさしを作っていて、その紅が目印のように木々の隙間にのぞいていた。
「来たことあるの?」
登りながら尋ねれば、Yes,とうしろから声が返る。
「昔、この辺で小十郎とはぐれてな」
「おやまあ」
「高いところに登ったら見えるかと思って――」
「迷子になったらそこを動くなって言われなかった?」
「小十郎の方が迷子になったんじゃねえか、と言ってやった」
かわいそうに、と内心苦笑しているうちに、木々の続く景色がひらけた。
空が蒼い。
山々は、朱に、紅に、黄金に、沈んだ緑を混ぜて、重なり連なっている。
空が、広い。
――一歩踏み出せば、そのまま。
「飛びたてそうな場所だろ」
ニイ、と独眼竜は牙を見せて笑う。目つきの鋭さとあいまって、子どもっぽいというには凶悪な笑みだ。しかしこれがひどく自慢げなのだと言う事実を踏まえれば、子どもっぽいことこの上ない。
「鳥にでもなりにきたわけ?」
「No,」
もみじ狩りだ。
独眼竜はまたしてもそう口にした。
「狩るんですか」
「Yeah,狩ってる」
笠を外して、竜はその独眼を山々に向ける。
「こうやって、見るだろ?」
「はあ」
「俺が見てる間だけは、あの紅葉もあのもみじも――」
みんな、俺のもんだ。
「は」
「Okay-Dokay,相変わらずいい眺めだな」
うんうんと独眼竜はうなずいて、「あの山もあの山もみんな俺のもの」と、言ってのけた。
――ちょっと待て。
「あのさあ、伊達さん?独眼竜?」
「Ah-han?どうした猿飛。あんたも見とけ」
腕組みをして背筋を伸ばし、ふんぞり返るような姿勢で竜はふりむく。何ともえらそうだ。事実えらい身分の人だからなお困る。佐助は自分より頭半分低い嫁の顔を見下ろして、橙赤毛をがしがしとかき回した。
――見ただけで自分のもんってどんな理屈だよ。
(言うだけなら勝手だけどさ)
否。そんなことより。
「仮にそれで、見てるだけで、この紅葉もあの山の紅葉も――あんたのものになるんだとして」
「Yes?」
「…でも、だって、ここは奥州じゃない」
あの山も、あの山も。
この紅葉も、あの空に飛ぶ鳥さえも。
「全部、ずっと、あんたのものじゃないか」
独眼竜は、静かに目を細めた。
佐助を見るその眼の金色に光がさして、唇が結ばれたままの顔は、微笑ともつかない。怒っているのでもない。けれど表情がない、と言うには――あまりにも優しい。
独眼竜がこんな風に静かな顔をするのだと、佐助が知ったのは、あの雨の日だ。
「人の生は、この世に客に来たと思えってな――」
「…俺様、禅問答は苦手なんだ。意味わかんないから」
「そうかい」
(でも、そんな風に、)
――届かないものを、見るような目を、しなくたって。
竜のものであるはずだ。
そのはずではなかったか。
――自分は竜の、婿のはずではなかったか。
佐助を見る竜の目と、竜を見る佐助の目と。
沈黙の狭間に風がふく。
もみじが舞って、黒髪にかかる。
鳥さえも黙りこむ。
(ああ、もう…)
佐助は唇に指をあてた。
ピーーーーーィ。
忍びの指から響いた鳥の声に、竜は目を猫のように見開いた。山鳥が何羽か音を立てて飛び立つ。
――脛の黒いのも、少し距離をとったようだ。
「…What?」
「いや、あの、どうも人目が気になって」
「ああ」
うちの連中か。
と、独眼竜も視線を向けかけて――伏せた。
「あ。ズルイ」
「あ?」
「竜の旦那、俺様が隠れてるときは遠慮なく見つけるじゃん」
それでなんど片倉の旦那にばれたことか!
ため息をつくと、竜はぱちぱちと瞬きして――にやりと笑った。
「見つかる方が悪い」
人の悪い笑みである。
「容赦ないね」
佐助は少し、ホッとした。
いつもの独眼竜だ。
あの時、もしも佐助が部屋に入るより早く、この竜がこの武田の忍びを見つけていたら。竜は佐助を追い返そうとしただろう。猿飛佐助は他国の草のもの。冗談でも婿だ嫁だと迎える相手ではない。
――あれは、まるっきり不慮の事故だ。
それでも、見つかったところで佐助はあの部屋に入ったかもしれない。佐助は竜の命令を聞くいわれはないからだ。そう思えば避けようのない事故でもあった。
――お互いにとって、事故だった。
その事故で出来た関係を、佐助も独眼竜も、壊そうとしない。
竜にはおそらく竜の事情があって、佐助が聞けずにいるその事情でもって、忍びの婿を前向きに受け入れている。
佐助は。
「お前だって、俺を見つけたじゃねえか」
「…うん。見つけちゃった」
嫁だ婿だと意味の分からない状況。冗談ならば伊達もいつか飽きるだろうと、次に顔を合わせたら何もなかったことになっているのではないかと、そう思いながららずるずると流されて自分から抜け出そうとしない。
「見つけられた、あんたの負け」
――その顔が、静かな目が、気になってどうしようもなかったから。
だから、ここにいる。
「Ah,…だからってあんまりジロジロ見るな」
「珍しいんだよ。紅いの」
「珍しくも無いだろ?武田では」
「あんたが着ると全然違う」
へらりと笑うと、佐助の嫁はその達者な口を閉じたまま、なんともじれったい様子で、笑みともつかない表情をした。
(変な顔)
(ああ)
(照れてんのか)
「でも、竜の旦那にはやっぱり、青のがいいよ」
黒髪に引っかかったままの紅いもみじを、つまんでとるのも、されるがまま。
「……そうかい」
佐助は、もみじ色に染まった嫁を鳶色の両目にうつしたまま。
――今。
今、見つめている間は、この人は俺だけのもの。
(まったく、大変な話だなあ)
竜が見つめるもみじ色の頭をかいて、けれどやっぱり、佐助も竜から目をそらせずにいるのだった。
