戦国BASARA・腐向け・サスダテ中心・本館(サササケ)を見ている方向け。
女体化とか幼児化とか遠慮なく出てきますのでご注意ください。
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と思って結婚してますシリーズ、お月見回を頑張ってみました。
色々まとまってない気もするのであとでnovel頁に載せるときに書き直すかもしれませんが、興味のある方は追記へどうぞ~
……え。仙台は雨…だと…?
月が丸く満ちたりた輝きで、海を照らしている。
潮風さえ銀色に見えそうな夜の中を、猿飛佐助は大きな凧に張りついて漂っている。
海には点々といくつもの、島の陰。
――
さて。
佐助は藍色めいた闇に、鳶色の目を細めた。
見事な満月。
忍びやすい夜ではない。
――
早く、一刻も早く、目標を見つけ出し降り立たなければ。
ここまで来れば後は決して、難しい仕事ではないはずである。
「…ってか、そもそもお仕事じゃないんだけどね」
苦笑してつぶやく声を、風がさらった。
何しろ探す相手は、佐助の嫁なのである。
――
忍びの仕事じゃないよなあ。
と、佐助は何度目のことか、胸の中でひとりごちた。
これは、十日ほど前のことだ。
秋の風もさわやかな真昼の青葉城の一室で、佐助は考える。
――
あるいは、これが仕事だとしよう。
頭の中で仮定してみた。
佐助の仕える主、武田信玄により、奥州筆頭である独眼竜伊達政宗に近づきその弱点をさぐれと命が下る。
どうやって近づくかと言えば何とびっくり。
武田の忍びである佐助が、その独眼竜の婿になっているのである。
(いや、無いな)
無い無い。馬鹿馬鹿しすぎて笑い話にもならない。
ため息をついて佐助は首を左右に振った。
(そもそも挙式して三ヶ月もたってるじゃん)
そしてこの三ヶ月、信玄からそうした命が下る気配は一切ない。
今日も今日とてお館さまは、『これは公の書状よ、分かっておろうな佐助』などと――
つまりは嫁の元へ行くからと気を緩めるでないぞ、という裏の意味を含ませつつ、奥州筆頭への書を佐助に託したものである。
だったら正式な使者を立てたらどうですか、と佐助は言ってみたいのだが、それを口にして真剣に夫婦仲を気にされるかと思うと頭が痛い。
馬鹿馬鹿しすぎて頭痛のする話ではあるが、この戦国の世に忍びとして生まれついた猿飛佐助は今、実に何の意味も脈絡もなく、奥州の覇王である男を嫁にしているのだった。
一応、百歩譲って、武田と伊達の関係を良好に保つための人身御供――
と言えなくもない。ない。ない。
(いや、無いなぁ)
何なんだろう、本当。
陽だまりにごろんと寝転がる。
部屋の主は、不在だ。
書きかけの手紙も文箱もそのままに、部屋の主――
どころかこの城の主である佐助の嫁は今、自ら茶菓子を仕立てに勝手どころへと出向いている。
墨の匂い、紙の匂い、香の匂い。
竜の陣羽織からいつも香る、それは。
――
白い夜着にさえ染み付いた。
トタトタと足音が近づく。
佐助はごろりと寝転がったままである。
少しは慣れたもので、畏まりすぎてもしょうがないと欠伸をしながら待っていれば、すらりと戸板が開いた。
「待たせたな、猿飛」
「いいえー」
答えて佐助は、独眼竜の抱える茶道具と菓子盆の大きさに立ち上がりかける。
と、風が吹いた。
文箱の角に挟まれていた白い一枚をひらり、庭のほうへと逃がそうとするのに手を伸ばし、忍びの手甲のままの指でつかまえた。
「Oh,thanks」
陽だまりに青い小袖のすそがひるがえり、さりげなく整えられる。そうして独眼竜が座りこむのを、佐助は見るともなしに視界に入れながら――
手にした紙片は目にしないように、へらりと笑って差し出した。
「なんだ、こんなもんが残ってたか」
独眼竜は受け取ると、金色の左目をわずかに見開く。
「んー?何なの?」
佐助の問いかけに、一瞬いぶかしげにふりむいて――
すぐに得たりと頷いた。
「歌だ」
「…ウタですか」
去年詠んだやつでな。と、竜は自分の字を見つめている様子。
和歌というものに佐助は縁がない。ただでさえ戦忍びの身上、しかも仕えているのは――
武田軍だ。お館さまや一握りの人間ならばともかく、基本的に触れる必要のないものと思っていた。
だがしかし佐助の嫁は伊達藤次郎政宗。藤原氏の流れを汲むという由緒正しいこの伊達家に長子として生まれたおひいさま、もとい殿さまである。何しろ伊達家では一族で連歌の会を催したりするのだ。何ソレ怖い、と佐助は思ったものだった。
話がそれたようだが、ともあれ佐助は未だ、ウタというよく分からないものとは縁のないまま過ごしたいなあ、と考えていたりする。
――
だが、独眼竜が納得したのはそこではないのだろう。
たとえ部屋に置き去りにされた紙片であっても、勝手には目にせずにおこう、という佐助の心を汲んでくれたのだ。
のん気にお茶をして帰った佐助を追うように、脛に黒革当てた奥州忍びが甲斐へとやってきたのがその証拠。
渡されたのは松の枝だった。
枝に結われた、白い紙だった。
“いづる間も ながめこそやれ 陸奥の ●君まつ島の 秋のゆふべは”
その白に焚き染められたのも、いつもと同じ竜の香だ。
思い出したのは、さらに月を遡り、夏の初めの梅雨のころ。
佐助は青葉城の奥にいた。
足は部屋の内、戸の影を踏んでいた。
小雨の降る庭から一息飛びに。
顔を上げると、見開かれて丸い、竜のひとつ目とかち合った。
白い内掛け、綿帽子。
――
そう。これはあの日、なぜだか独眼竜が花嫁衣裳を着ていた時の話だ。
『何してんの?独眼竜の旦那』
独眼竜は凶悪につり上がった左目を、ぱちりと瞬かせ――
それがひどく、幼く見える。
『ば…!』
隠れろ、馬鹿!
そんな声が聞こえた気がした。
忍びの耳だけに間違いはないはずだが、なにぶん声とともに屏風の下敷きにされたものだから、佐助の記憶もいささかあやふやだ。
『あの、竜の、』
『Shut up!なんでこんな時に来やがった!』
『いえまあ忍びのお仕事は年中無休で本当に休暇欲しいなあと俺様も思うけど、ちょっ、潰さないで!潰さないで!!』
このまま床の影に押し込めば忍びも影に還るだろうとばかり、独眼竜は必死の形相、佐助を屏風で壁際にぐいぐいと押しやってくる。
屏風を壊すのなど簡単で、むしろ今は破らないように懸命な佐助だが、さすがに逃げ場がなくなった。
『あのさ、どうしちゃったの、独眼竜』
まず事情を説明して欲しい、と、不法侵入を棚に上げ真摯な目で訴えてみると、屏風の猛攻が緩む。
『……』
沈黙。きゅっと噛まれる唇。そらされる瞳。
何もかもが珍しい。
――
だが、どうやら怪しげな薬をかがされて前後不覚、というわけでもない様子。
しとりと濡れた空気に、覚えのある香りが溶け出している。
佐助はその、花嫁衣裳を着た戦国武将をじっと見つめた。
花嫁衣裳の戦国武将。
――
まったくもって、意味が分からない。
『結婚するんだ』
『……、へえ。』
意味が分からない。
分からないなりに佐助の忍びとしての本能が、さらなる情報を求めて適当な相槌をうたせたのだった。
『で、誰と?』
『…この部屋に』
一番最初に、入ってきた男と。
落ち武者のような片倉小十郎を担いだ女中たちがどやどやと入ってきたのは、そのすぐ後のことである。
――
まあ、要するに、あれは伊達家の悪ふざけであって、本来被害者になるはずだった片倉の旦那の代わりが俺様というわけだ。
冗談に人生賭けるあたり、さすが伊達家だなあ、と佐助は思ったものである。
というのは半ば冗談で、しかしどうにも真っ当な説明がなされないままなのだから、悪ふざけ説も捨てがたい。
――
問題は、きっかけが何にせよその後甲斐から佐助の上司が呼ばれ、とどこおりなく祝言がすみ、遠距離新婚生活が着々と進んでいるというこの現実だ。
「特に、伊達家の婿として心得を叩き込まれなきゃならないこの現実…」
「テメエのその締りのねえ独り言はどうにかならねえのか、婿殿」
低い声が正面から、正座した佐助の背を叩くように響く。
――
かろうじて最後につけられた『婿殿』という単語が、いっそ無ければいいのに。
佐助は件の歌を手にしたまま、ため息を押し殺してへらりと笑う。
目の前では伊達軍参謀片倉小十郎景綱が、ため息を殺そうともしない。
均整が取れつつも頼もしい背格好に、黒髪を撫で付けた顔だちもきりりとひきしまり、その隙なく座した様子だけで名のある武将であることは一目瞭然。
――
実力は、伊達家に縁付く前から戦場でよく知っている。
その片倉小十郎が『政宗様と婚姻するなど俺にはできねぇ!』と遁走したのを、よってたかって取り押さえ花嫁の下へ、と奮闘したのだから伊達家の女中も恐ろしい。
ともあれこの伊達軍参謀は、主にどこまでも純粋な従者としての忠誠を誓っているのだ。
つまり。
――
そんなに気に入らないならあんたが婿入りすりゃよかったじゃん!!
などと言ってはいけないのである。
夕暮れの風が、その黒髪をひとすじ揺らして額にかけた。
いわゆる“極殺状態”に酷似している。
「で、俺に何の用だ猿飛。…いや婿殿」
(ここにたどり着くまでが長かったなあ…)
佐助は改めて、背筋を正した。
伊達家が婿の心得その一。
居ずまいは常に切腹に臨むつもりで正すべし。
――
いやいや、冗談だと言ってくれ。
嫁から謎の歌を送られて、十日ほど経っている。
謎の歌と呼ぶより、佐助にとって和歌という存在が謎めいている、と言うほうがより正しい。
和歌を知らない佐助なりに人に聞いてまわってみたり、縦にしたり横にしたり匂いをかいでみたり、と仕事の合間に尽力した結果、いくつかの事実が分かった。
“いづる間も ながめこそやれ 陸奥の ●君まつ島の 秋のゆふべは”
まず素直に読んでみると、『秋の夕べ、奥州の島であんたが来るのを眺めながら待ってるぜ!』といったところであろう。
次に京都で遊びまわっている風来坊からの情報では、歌は伝えたいことがあるから詠むんだよ!との事だ。
つまり、ひょっとしてひょっとしなくてもこれは佐助の嫁が、佐助を待っているという意味ではなかろうか。それに気づいて佐助は総毛だった。
――
いつ?奥州の島ってどこ?すっぽかしたらどうなんの!?
幸いこの『どこで』はある程度範囲が絞られた。風来坊の叔父夫婦、前田家のまつ殿によると、和歌は三十一文字に収めるために、または諸々のよく分からない理由で言葉をかけてあることが多いらしい。そう言われてみると“君まつ島”は『君待つ島』だけでなく『松島』という地名が隠れていてもおかしくない。和歌をくくりつけていた松の枝に潮の匂いが残っているから完璧だ。
松島、まで分かれば探しようはあるだろう、と佐助は楽観的に考えた。小さな島がたくさんあるから、船がとまっているところを虱潰しにすればいい。忍びのやることだ、何でもありだよ。
――
問題は、『いつ』。
黒脛布が佐助に追いついた時節を考えると、その時すでに、とは考えにくい。
ここで気になるのは、真ん中に挟まれた奇妙な黒丸である。
書き損じではなく、文字より大きく丁寧に円が塗りつぶされている。
これがもし、『いつ』の印だとすれば。
――
黒い丸、と言えば、新月か。
否。
そこで佐助は、やっと気づいた事実に、己の頭を松にぶつけたくなった。
「そのままぶつけて割っちまえ。いや、頭を鍛えて来い。婿殿」
「そろそろ悪意を感じるなあ。とにかく、これが問題の歌なんですけど」
と、畳んだままの紙をひらひらと振る。
中身は見せない。
――
見せろ、とも言われない。
「たぶん、俺がこの前見た紙そのままなんですよ」
「ほう」
「墨も少し古いし、でもこの黒丸と“君”の字だけ新しい」
「……」
「だから、竜の旦那が言ってた“去年詠んだやつ”、一文字潰して書き加えたんじゃないかなって」
日が山の端にかかって、部屋は紙を広げても見えづらい薄明かりに落ちつつあった。
「いづるまも、ながめこそやれ、みちのくの、……まつしまの、あきのゆうぐれ。って、なに待ってるのか片倉の旦那ご存知ありませんかね?」
「――
どうして俺に聞く」
「いやだって、一番知ってそうじゃない」
ぎらり、と双眸が薄明かりの中、佐助を射抜くように見た。
「答えが分かったから今日来たんだろうが、婿殿」
(おお怖っ)
佐助は肩をすくめ、ゆるく笑った。
「いや、松島は月の名所だって、風来坊が言うんでね?」
ただ消すのではなく黒い真丸を、独眼竜が何を思って描いたか、分かってくると遊び心の謎かけはなるほど、怖くは無い。
今日は。
――
今晩は、中秋の名月だ。
「でも一応、確認しとこうかなーと思いまして」
薄明かりに、竜の忠臣はため息をもらす。
「…去年の十五夜に、政宗様が詠まれた歌だ」
それが柔らかいのは、ため息の情の出どころが佐助への苛立ちではなく、彼の主への想いだからなのだろう――
と、分かった。
「今晩お前が来ても、城の者は政宗様の行き先を告げない事になっている」
「そりゃまた…」
城の者は伊達軍の兄ちゃんたちから裏の勝手どころの者、女中も厩番も皆若い城主の味方だ。必死で考えてきてよかった、と佐助は背筋に汗を感じた。
「だが、政宗様が去年――
そこから見る月が一番美しい、と仰られた島ならば…」
指が木目に、青葉城と海岸線、そしてその島の位置を示す。
「ここだな」
トン、と指が床に鳴る。
佐助はくっと深く頭を下げた。
「政宗様を待たせるんじゃねえ」
ほのぼのと笑みが顔に湧くような気がした。
“いづる間も ながめこそやれ 陸奥の 月まつ島の 秋のゆふべは”
そう歌ったのだそうだ。かの独眼竜、雛の華人は。
「待っていたのは、お月さまかー…」
つぶやく声がまた、潮風に消えていく。
――
消えずに届けばいいと思う。
この声を聞き取ったらきっと、佐助の嫁は空を探してくれるだろう。それともかくれんぼの子どものように身をひそめるかも分からない。
すっかり日が暮れて、すでに件の名月は藍色の夜空につやつやと輝いていた。
『月見の御殿を造るんだとおっしゃって、すでに屋根を葺いて床を張った場所もある』
『あれ、そこまで教えちゃっていいの?』
『…どうせ暗くて見つからねえ』
と、片倉小舅――
いやいや、片倉小十郎景綱殿は、不機嫌そうに言ったものだ。
――
奥州の人々は、つくづくこの土地を統べる竜に甘いのだろう。
だから、竜が受け入れている限り、猿飛佐助は独眼竜の婿殿なのである。
(竜が許す限り…)
――
それは、いつまで?
月の光で銀色の波間、暗い水面に目を凝らす。
そうして佐助は、また笑った。
「発見」
明々と見えたのは、小さくとも月見には無粋なかがり火。
大凧から綱を下ろすと、造りかけのひさしに座す、青い影へと降り立った。
「こんばんはっ」
ばあ、と姿を見せると同時に声をかければ、Wow!と竜は驚きの声を呑む。
背の縫い取りは三日月の、陣羽織を小袖の肩にかけた、少し寒そうな姿。
「…来たな」
「来ましたよ?」
当然、という顔で答えると、満足そうに笑む口も三日月になる。
「いい場所だろう」
「うーん、中々」
得意げな顔ににやり、と笑んで見せれば、察したようで眉を寄せる。
「Han?甲斐の山の月のがいいってか?」
口だけは笑うかたち。
曲者めいた笑顔は何だか、戦場に戻ったようで懐かしい。
――
焚き染める香は変わらない。
「甲斐じゃなくて、すぐそこ」
天を指させば四角い影。
竜は夜空を見上げ、ホウ、と左目を見開いた。
(あ。お月さま)
金色の眼も丸い。
満月めいた視線が佐助の方に下りるころには、鋭いかたちにもどっていた。
「ん」
差し出された手をうやうやしく受け取って、佐助は凧を手繰り寄せる。
「じゃ、参りましょうか」
「Okay」
佐助の嫁は無邪気に無邪気に笑った。
――
逃げ場の無い空の上で、説いてやろう。
忍びへの手紙はもう少し簡単に。
(それも寂しいかなあ。いやいや)
――
仕事ではなくわけも分からず、結び合わされ、なのに必死で追いかけるのはどういうわけか。
困ったことのようで、けれど何となく悪い気はしなくて。
大きな丸い月にはしゃぐ竜の隣、佐助はゆるく眉寄せて笑う。
月光の中で橙色の頭をかくと、はるか下からさやさやと、松風の音がした。
了
“いづる間も ながめこそやれ 陸奥の 月まつ島の 秋のゆふべは”
史実で伊達さんが詠んだ歌を拝借しました。
